無手(読み)むて

精選版 日本国語大辞典 「無手」の意味・読み・例文・類語

む‐て【無手】

〘名〙 (「むで」とも)
① (形動) 手に何も持っていないこと。手ぶらなこと。また、そのさま。からて。素手
※歌舞伎・月出村廿六夜諷(1821)大切「一本差してうせると聞いては危ないもの、無手(ムテ)ではいけまい」
② (形動) 特別な技芸を身につけていないこと。何のたしなみもないこと。とりえのないこと。また、そのさま。無能。無芸。
※早雲寺殿廿一箇条(17C初)一五条「歌道なき人は、無手に賤き事なり」
※評判記・難波物語(1655)「手などつたなからず、しゃみせん、琴、尺八もむでならず」
③ (形動) 資本や有効な手段・方法なしに物事を行なうこと。元手をかけないこと。また、そのさま。
※歌舞伎・謎帯一寸徳兵衛(1811)大切「こなさんの娘なれど、貰ふ時にも名を附けて、帯代の二十両、無手(ムテ)で貰った女房ぢゃアごんせぬ」
④ (形動) 何も得るところのないこと。無駄なこと。また、そのさま。
※小松軍記(近世初)南部無右衛門、永原松雲喧嘩之事「松雲は其時も江口が无手なる働して、只今敵に返されなば一人も残まじ」
⑤ (形動) 前後のみさかいのないこと、あるいは強引なこと。無理なこと。また、そのさま。
結城氏新法度(1556)四三条「しうこ状なともなく、無手に人に代かし候などと言かかり候はんは」
⑥ 拳(けん)で、握りこぶしを出して零(ゼロ)を示すこと。むゆう。なし。
浄瑠璃・傾城阿波の鳴門(1768)一「拳を拍子の踊りぶり、ムテ、チエイ、ロマ、ヤットセイヨイヨイ」

なき【無】 手(て)

ふたつとない手段・方法。また、この上もない手ぶり。またとないわざ。
※海人刈藻物語(1271頃)四「みななき手をつくし給、なかに、式部卿宮の三位中将、いんの新中納言、せいかいはをまひ給」

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デジタル大辞泉 「無手」の意味・読み・例文・類語

む‐て【無手】

[名・形動]《「むで」とも》
手に何も持っていないこと。また、そのさま。からて。素手。「暴漢無手で立ち合う」
方策技術などを持たずに、物事に当たること。また、そのさま。「交渉無手で臨む」
何も得るところがないこと。また、そのさま。
「―に帰るも本意なければ、せめてはちらと御目にかかり」〈浮・元禄大平記〉
けんで、零(ゼロ)を表す握りこぶしを出すこと。
「―ととをらいは打つもんぢゃあねえと」〈滑・浮世風呂・三〉

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