ゼロ(読み)ぜろ(英語表記)zero

翻訳|zero

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼロ」の意味・わかりやすい解説

ゼロ
ぜろ
zero

何も存在しないことを表す数0のこと。日本語では零という。0は整数である。0は、もともと位取り記数法で、ある位が欠けていること、つまり、空位を表す記号としてインドで非常に古い時代に発見され(一説には紀元5~6世紀)、その後、数として取り扱われるようになったという。十進位取り記数法(じっしんくらいどりきすうほう)では1234と書けば、千二百三十四を表し、1、2、3、4の数字はその置かれている位置によって、違った大きさを表している。つまり、最初の1は千の位が1であること(1000)、次の2は百の位が2であること(200)、3は十の位が3であること(30)、4は一の位が4であること(4)を表している。この位取り記数法で、たとえば、百の位が欠けていることを表すのに、1 34と空位をあけておくだけにすると、最初の1がなんの位かはっきりせず、誤るおそれがある。そこで、空位をはっきりと表す記号として0を考え、それを使うことにすると、1034のように紛れがなくなる。このように、位取り記数法には空位を表す0が必要不可欠である。十進位取り記数法では、1、2、……、9、と0の10個の数字を使って、どんな整数も小数も表すことができる。

 簡潔で明らかな表し方である位取り記数法は、ほかにどんな利点があるかといえば、それはまず第一に、上の桁(けた)へ移っても新しい記号が不要であること。たとえば、漢数字では、百、千、万、億、兆、またローマ数字では、X(10),C(100),M(1000)のように、位取りでない記数法は次々と新しい数字が必要となるのに、位取り記数法では必要としない。第二は、表された数の大小をひと目で知ることができること。第三の、そしてもっとも重要なのは、計算が容易になることである。位取りでない記数法で表された数について、加減の計算はそれほどでもないにしても、乗除になると複雑になり、手に負えなくなる。たとえば、中世ヨーロッパでは計算は計算親方といわれる人の仕事であったし、日本では計算はそろばんに任されていたのである。ところが位取り記数法で表された数では、計算の仕方がわかりやすく、だれにでも理解できるものとなった。0を用いた位取り記数法は、インドからアラビアを経てヨーロッパに伝わったので、アラビア数字の名が残っている。

 数としての0は次の性質がある。加法において、どんな数aについても、a+0=0+a=aとなる。減法ではa-a=0,a-0=aとなる。乗法においては、どんな数についてもa×0=0×a=0となる。除法では0でない数aについて0÷a=0となるが、0で割ることはできない。数の範囲を負の数まで広げると、0は正の数と負の数の境目にあたる数で、どの正の数よりも小さく、また、どの負の数よりも大きい数である。

[三輪辰郎]

『吉田洋一著『零の発見』(岩波新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゼロ」の意味・わかりやすい解説

ゼロ
zero

零。アラビア数字の一つ。数字0で表わされる数。空集合の集合数,すなわち無を表わす。数0は,自然数 (0を自然数に含める流儀もある) ,負の整数とともに整数に含まれる数であって,数学的には次のように定義される。いかなる数 a に対しても axxaa なる数 x を0と書く。0のこの定義と分配の法則から a×0=0×a=0 なる性質が導かれる。また指数関数においては a0=1 と定義される。ただし,0を除数とする除法は定義されない。0は古代インドにおいて発見され,アラビアを経由してヨーロッパにもたらされた。数字0がもたらした数の表記法における簡便さと,数0という数学的な概念の重要さから,ゼロの発見は文化史上に重要な意義をもつ。

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