日本大百科全書(ニッポニカ) 「物言語」の意味・わかりやすい解説
物言語
ものげんご
thing-language
論理実証主義の指導者カルナップの用語。感覚与件言語に対立する。われわれを取り巻く知覚可能な事物について語る場合、その適用のために科学的な手続を必要としない日常生活で使われる用語のこと(たとえば「重い」は物言語に属するが、「重量」は属さない)。カルナップによれば、科学言語によって記述される文(物理学、生物学、心理学等々の命題)はすべて、物の観察可能な性質や物の間の観察可能な関係を記述する物言語の文に還元可能だとされ、この立場は物理主義とよばれる。それに対し、科学言語はすべて感覚与件言語に還元可能であると主張するのが現象主義である。ウィーン学団の内部では、1930年代の初頭に現象主義の立場を堅持するシュリックと物理主義を奉ずるカルナップやノイラートとの間に「プロトコル命題論争」がおこり、その結果物理主義の側が優位にたった。しかしカルナップはのちに、物言語をプロトコル命題として受け入れるか否かは、理論的問題ではなく実践的選択の問題であるとする「寛容の原理」を承認するに至る。
[野家啓一]
『カルナップ著、永井成男・内田種臣訳『カルナップ哲学論集』(1977・紀伊國屋書店)』