シュリック(読み)しゅりっく(英語表記)Moritz Schlick

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュリック」の意味・わかりやすい解説

シュリック
しゅりっく
Moritz Schlick
(1882―1936)

ドイツの哲学者。ベルリン生まれ。ベルリン大学で、マックスプランク弟子として物理学の論文学位をとった。キール大学などいくつかの大学で教えたのち、1922年からウィーン大学教授となる。その間にアメリカの大学に教えに行ったこともある。彼同様に自然科学の素養があったノイラートカルナップ、ワイスマンFriedrich Waismann(1896―1959)、ゲーデルなどとともに、検証可能な命題だけを基礎に哲学を再編成しようとするウィーン学団を結成し、宣言を発表し、国際会議を開き、機関誌を発行するなど、この学団の活動の中心人物であった。ノイラートやカルナップの極端な物理主義とは異なり、精神現象について述べる言語の独立性を説き、ウィーン学団のなかでは右派といわれる。1936年、彼は精神に障害をもっていた学生に暗殺された。まもなく学団のメンバーはナチス弾圧を避けて諸外国に亡命し、論理実証主義の内部崩壊が始まりかけたので、彼はこの主義と興亡をともにしたシンボルのようにいわれることがある。主著に『一般認識論』(1918)、『倫理学考』(1930)などがある。

[吉田夏彦 2015年2月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シュリック」の意味・わかりやすい解説

シュリック
Schlick, Moritz

[生]1882.4.14. ベルリン
[没]1936.6.22. ウィーン
ドイツの哲学者。ウィーン学団の創始者。ハイデルベルク,ローザンヌ,ベルリンの各大学で物理学を学び,ベルリン大学では M.プランクの指導を受けた。 1917年以降ロシュトク大学,キール大学,ウィーン大学,スタンフォード大学などの助教授,教授を歴任。その思想的傾向は,E.マッハ,L.ボルツマンの影響を受けるとともに,哲学的には B.ラッセル,L.ウィトゲンシュタインの,倫理学的には功利主義の影響を受け,学団のなかでは右派に位置づけられる。彼が精神異常の学生に暗殺されたのち,学団の主要メンバーであった R.カルナップがアメリカのシカゴ大学に移り,ここにアメリカのプラグマティズムとドイツの論理実証主義とが融合し,いわゆるウィーン=シカゴ学派が誕生した。主著『現代物理学の空間と時間』 Raum und Zeit in der gegenwärtigen Physik (2巻,1919) ,『倫理学の諸問題』 Fragen der Ethik (30) ほか。

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