ドイツ出身で、アメリカに帰化した哲学者。ウィーン学団の一員であり、1931年プラハのドイツ大学助教授、1935年渡米し、シカゴ大学、カリフォルニア大学教授を歴任する。現代論理学の成果を哲学に応用することに一生を捧(ささ)げた。若いとき、論理主義者フレーゲやラッセルの論理学・哲学上の仕事から強く影響されたが、同時に、形式主義数学基礎論の考え方もよく理解していたように思われる。その結果、哲学上の問題の大部分は、メタ論理学の問題の変装したものにすぎないと論じ、論理実証主義が流行していた1930~1940年代は、とくにアングロ・サクソンの哲学界に多大の影響を与えた。その後、1950年代以降、いわゆる日常言語学派の勢いが盛んになってからは、過去の哲学者とみなされることも多くなった。しかしこの批判は、かならずしも妥当なものではない。カルナップは、明確に、かつ、わかりやすく本を書くという長所をもっていたために、難解な表現しかできない「怠け者の哲学者」ほどには深みがあるようにみえないが、その提唱のなかにはいまなお意義のある部分がある。
[吉田夏彦 2018年6月19日]
『永井成男・内田種臣編、内井惣七他訳『カルナップ哲学論集』(1977・紀伊國屋書店)』▽『Paul Arthur SchilppThe Philosophy of Rudolf Carnap (1963, Open Court, La Salle, Illinois)』
哲学者。論理実証主義の創設者の一人。またアメリカにおける分析哲学の発展に指導的役割を演じた。ドイツに生まれ,最初は物理学を専攻した。後にフレーゲとB.A.W.ラッセルの影響の下に哲学に関心をもち,1926年ウィーン大学の私講師となり,シュリックらとともにウィーン学団を結成し,その中心人物となる。当時ベルリンにいたライヘンバハとともに雑誌《エルケントニス(認識)》を刊行し,論理実証主義の思想を世界に広めた。後にナチスを逃れて,35年アメリカに渡り,シカゴ大学,カリフォルニア大学で教え,その地に新しい哲学を植えつけた。その学風の影響の下にクワインらを起点とする現代アメリカ哲学が育った。彼の哲学思想の発展は大きく3段階に分けられる。第1段階は《世界の論理的構成》(1928)における過激な現象論的経験主義の時代であり,その立場から,多くの哲学的命題は擬似問題として退けられ,また,《言語の論理的シンタックス》(1934)において,哲学とは科学言語の論理的シンタックス(統語論)であるという立場が示された。第2段階として,《検証可能性と意味》(1936-37)において,その立場はいわゆる物理主義へと弱められ,また第3段階として,アメリカの哲学者との交流を通じて話題を広げ,意味論的諸概念の分析,物理学や帰納論理の基礎づけを試みた晩年がある。日本にはアメリカの哲学者を通じて第2次大戦後はじめて本格的に紹介されたが,まだ十分な評価がなされていない。近時,世界的に彼の哲学の再評価の試みが現れている。
執筆者:坂本 百大
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…他方その現代的形態は〈物理的事物に関する命題は感覚与件sense‐dataに関する命題に分析可能である〉という主張に見られるごとく〈言語的還元〉の方向を目ざす。上の主張は〈物理的事物は感覚与件からの論理的構成物である〉と言い換えることができ,このテーゼを忠実に展開したのがカルナップの《世界の論理的構築》(1928)である。ほかにG.E.ムーア,B.A.W.ラッセル,エアーら分析哲学の流れに属する哲学者たちがこの〈言語的現象主義〉の立場を代表する。…
…20年代の後半から30年代にかけて盛んとなった論理実証主義は《論考》時代のウィトゲンシュタインから大きな影響を受けたが,一方先鋭な実証主義,反形而上学,科学主義とくに物理学主義をもって知られる。しかし論理実証主義者,とくにその代表者カルナップは《論考》の思想を規約主義的に変形して理解し,哲学的活動を一種の言語分析として規定した。それは形而上学に対してはその言明の無意味性を主張し,特殊諸科学に対してはその言語の統語法を論ずる論理的統語論を構成することであった。…
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