産業用ロボットは、「自動制御によるマニピュレーション機能又は移動機能をもち、各種の作業をプログラムによって実行でき、産業に使用される機械」と日本工業規格(JIS B 0134-1998)で定義されており、ここでいうマニピュレーションとはいいかえるならば、人間の上肢(腕や手)に類似した多様な動作機能を有するもので、産業用ロボットは、(1)腕や手としてのマニピュレーター、(2)これらの関節を動かす駆動機構としてのアクチュエーター、(3)センサー(腕の位置や速度等を計測する内界センサーやロボットが作業するうえで対象物の認識等を行う外界センサー)、(4)ロボットが移動を行ううえでの移動機構、(5)これら一連の動作を制御するコントローラー(制御装置)、などにより構成される。
ロボットは、その利用の歴史からもうかがえるように「産業用ロボット」として産業界、とくにそのほとんどがものづくりとしての製造現場において活用されている。製造現場での塗装、溶接、組立てなどの作業で一般に利用されている産業用ロボットのほとんどは、マニピュレーション機能を有するもので、これは産業用マニピュレーティングロボットとよばれ、JISの定義では「三以上の軸をもち、自動制御によって動作し、再プログラム可能で多目的なマニピュレーション機能をもった機械。移動機能をもつものともたないものとがある」となっている。同様に、JISではこのロボットを一般分類、機械構造形式で分類している。一般分類および機械構造形式の分類による各定義は、以下のとおり。
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〔1〕シーケンス・ロボットsequenced robot 機械の動作状態が、設定した順序・条件に従って進み、一つの状態の終了が次の状態を生成するような制御システムをもつロボット。
〔2〕プレイバック・ロボットplayback robot 教示プログラミングによって記憶したタスクプログラムを、繰り返し実行することができるロボット。
〔3〕数値制御ロボットnumerically controlled robot(NC robot) ロボットを動かすことなく順序・条件・位置その他の情報を数値、言語などによって教示し、その情報に従って作業を行えるロボット。
〔4〕知能ロボットintelligent robot 人工知能によって行動を決定できるロボット。知能ロボットは、(a)センサー情報を用いて動作の制御を行う感覚制御ロボット、(b)環境の変化などに応じて制御系の特性を所要の条件を満たすように変化させる適応制御ロボット、そして(c)過去に得られた制御過程をもとに、制御パラメーター(係数)、またはアルゴリズム(実現可能な問題解決手法)を逐次所要の条件を満たすように変更していく学習制御ロボットの三つに分けられる。
〔5〕遠隔制御ロボットteleoperated robot オペレーターが遠隔の場所から操作することができるロボット。
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〔1〕直角座標ロボットCartesian robot, rectangular robot 腕の機械構造が、三つの直進ジョイントをもち、それらが直角座標形式であるロボット。
〔2〕円筒座標ロボットcylindrical robot 腕の機械構造が、少なくとも一つの回転ジョイントと一つの直進ジョイントをもち、それらが円筒座標形式であるロボット。
〔3〕極座標ロボットpolar robot, spherical robot 腕の機械構造が、二つの回転ジョイントと一つの直進ジョイントをもち、それらが極座標形式であるロボット。
〔4〕関節ロボットanthropomorphic robot, articulated robot 腕の機械構造が、三つ以上の回転ジョイントで構成されているロボット。
上記の形式をベースとした特殊形式のロボットもある。たとえば、(a)スカラロボットSCARA robot 腕の機械構造が、平行軸の回転ジョイントをもち、軸に直行する平面内にコンプライアンス(順応性)をもつロボット、(b)ガントリーロボットgantry robot 腕の機械構造が、ガントリー(門型の架構)を含む直角座標ロボット、(c)振り子ロボットpendular robot 腕の機械構造が、ユニバーサルジョイントで旋回する部分を含む極座標ロボット、(d)スパインロボットspine robot 腕が、二つまたは三つの球ジョイントで構成されるロボット、(e)パラレルロボットparallel robot ベースとメカニカルインターフェースとの間の機械構造に複数の動力伝達経路をもつロボット、などである。
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ロボットの語源は、1920年にチェコの劇作家であったカレル・チャペックが戯曲『R・U・R――ロッサム万能ロボット会社』において人造人間を意味するロボットということばを使ったことに由来しているが、産業用ロボット(インダストリアル・ロボット)は、アメリカのデボルGeorge C. Devolが1954年に出願した特許「Programmed Article Transfer」において、教示teachingと再生playbackにより、物を置いたりつかんだりするput and take機械としてのプレイバック・ロボットの概念が発表されている。
この特許により、1958年にアメリカのコンソリデイテッド・コントロール社Consolidated Control Corp.(CC社)がデジタル制御によるプレイバック・ロボット(記憶再生式ロボット、Automatic Programmed Apparatus)のプロトタイプ(原型)を発表、引き続いて1962年にアメリカのユニメーションUnimation社やAMF社がそれぞれプレイバック・ロボットの実用第1号機を製作した。一方、ヨーロッパにおいては1963年ごろにスウェーデンのカウフェルトKaufeldt社がプログラマブル・マニピュレーター(プログラムの組める操作機)の第1号機を発表したのが産業用ロボット誕生の始まりである。
日本における産業用ロボットの開発と実用化が開始されたのは、アメリカからプレイバック・ロボットの実用機が初めて輸入された1967年(昭和42)ごろからである。1960年代の日本は高度成長期で労働力不足が深刻であった時期にあたり、それがロボットの開発や普及の基本的要因となった。
さらに、これまでおもに人間が行ってきた危険作業や単純繰り返し作業といった労働安全衛生上の、そして製品品質の安定と生産性の向上といった観点から、産業用ロボットが求められるようになった。こうした産業界の要請とそれにこたえうるロボット技術の向上とが相まって、産業用ロボットを普及させたのである。また、大量生産の時代から中種中量、多種少量生産の時代に移行していくなかで、産業用ロボットは、従来の自動機に比べてその汎用(はんよう)性の高さが評価され、FA(工場の自動化factory automation)、FMS(フレキシブル生産ライン、多品種少量生産の生産性を高めるため作業内容に柔軟性をもたせた生産ラインflexible manufacturinng system)といった新しい生産システムの中核的役割を担うかたちで拡大発展してきた。その成長の牽引(けんいん)力としては、おもに以下の要因があげられる。
〔1〕ユーザー産業自身の高い生産技術力
ロボットの使いこなしでより高い生産性を達成しようとするユーザー間の競争、および使えるロボットにするためのロボットメーカーへの要求仕様の提示。
〔2〕ロボットメーカーの高い技術開発力とロボットの信頼性向上
上記に関連し、ユーザー産業の要求にこたえうる機能および性能の開発と実生産ラインで多数かつ長時間使用できる高信頼性の実現。
〔3〕ロボットの価格低減
ロボットメーカー間の激しい競争と普及によるロボットの量産効果。
〔4〕ロボット産業育成、発展のための政策的措置
税制、貸付制度および貸与制度、研究開発促進策(たとえば、極限作業ロボット研究開発は、1983~90年度まで。マイクロマシン技術研究開発は、1991~2000年度までなど)等。
〔5〕国際競争力強化のため、生産性および品質向上のニーズが高まる
1970年代の二度にわたる石油危機による物価の高騰、1980年代後半の円高、および90年代のバブル景気に至るなかで、国際競争力を維持するために生産コストの低減と品質向上に向けた自動化・ロボット化ニーズが高まっている。
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産業用ロボットは、製造業分野での生産性や品質の向上といった「ものづくり」を支えるツールとしてその役割を担うとともに、その普及を通して産業の競争力強化に貢献するなど多くの社会的ニーズに対応してきた。その結果、国際ロボット連盟International Federation of Robotics(IFR)の調査によると、日本のロボットは世界の稼働台数の過半を占めるまでに成長し、ロボット王国といわれるほどとなっている。
一方、ロボットの活躍舞台はこれまでの製造現場から、今後のロボット技術の高度化によって農業、建設、電力・ガス、運輸・通信、医療・福祉、防災、海洋開発、宇宙等の非製造業分野、さらに個人・家庭を対象とするパーソナル分野へと広がるとみられている。
とくに日本は、少子・高齢化に伴う社会構造の変化や環境・エネルギー問題、そして急速に進展するIT(情報技術)化に伴う産業構造の変化やグローバル化といったさまざまな課題のなかで、産業競争力を維持しつつ活力にあふれた社会を実現することが強く望まれている。そしてこれらの課題を踏まえつつ、国民が安心して生活を送れるような環境の整備、ゆとりや豊かさなどの質の向上が求められており、それらの欲求を満たすうえでもロボットの活用が期待されている。
たとえば、ネットワークなどITを駆使したロボットが誕生しようとしている。すでに研究段階に入っているのが、ネットワークを介したリモートメンテナンスや加工・製造、遠隔医療(診断・手術)等である。また、複数のロボットをネットワークで結んだ協調作業、あるいは知能化したロボット使用環境とのネットワーク化などでも、すでに研究が進められている。エンターテインメント分野などでは、すでに商品化を実現するなど、頭脳産業の一つとして新たなロボット産業の成長が期待されている。
また、生産年齢人口(15~64歳人口)が1995年(平成7)の8700万人から、2015年には7700万人と20年間で1000万人も減少すると予測されていることから、就労人口の不足を補いつつ生産規模を維持していくためにはロボット化は不可欠である。65歳以上人口の活用はもちろんだが、ロボットに彼らの作業を支援させたり、熟練労働者の不足に対しては熟練ノウハウの知能化ということも期待される。
また、地球の温暖化や廃棄物の増大による環境問題、そして資源エネルギーの有限性に伴う問題などは、地球規模での社会的、政治的主題となっているが、ロボットはそれ自身の省エネルギー化に加え、作業の効率化を通して環境問題へ貢献できるだろう。そして、リサイクリングにおける廃棄物処理や環境に配慮した循環型生産システムでの利用が期待され、新機能を備えたロボットの需要を生み出す可能性は大きい。
さらに、今後の社会環境の変化に伴って、ゆとりと豊かさが希求され、少子・高齢化社会が到来し、あるいは女性や身体障害者のよりいっそうの社会参加が求められる、といった要因から、パーソナル分野は巨大な潜在市場をもつものとみられている。とくに、エンターテインメント・ロボットや癒(いや)し系ロボットの出現が示しているとおり、パーソナル分野や福祉・介護・医療などのサービス分野でのロボット需要が、今後の新規市場として大いに期待されている。
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『日本産業用ロボット工業会編『産業用ロボットの技術』(1981・日刊工業新聞社)』▽『日本産業用ロボット工業会編・刊『産業用ロボット・ハンドブック』(1985)』▽『ゲッティンゲン社会学研究所編、土屋嘉一郎監訳『産業用ロボットと労働者――フォルクスワーゲンの調査研究』(1986・文眞堂)』▽『稲垣荘司・安藤嘉則著『産業用ロボットの知能化』(1987・マグロウヒル出版)』▽『メカトロニクス編集部編『最先端の産業用ロボット』(1988・技術調査会)』▽『日本規格協会編『JISハンドブック(37)産業用ロボット』(1990・日本規格協会)』▽『大下武人著『先端技術とこれからの中小企業』(1991・中央経済社)』▽『厚生労働省編『産業用ロボットの安全管理――理論と実際』『産業用ロボットの安全必携――特別教育用テキスト』第2版(2001・中央労働災害防止協会)』
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(築地達郎 龍谷大学准教授 / 2007年)
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