チェコの劇作家、小説家。1月9日、地方の開業医の息子として生まれる。のちにプラハへ移住、パリ、ベルリンにも留学し、大学では哲学を専攻した。卒業後数年して新聞界に入り、1921年からプラハの『リドベー・ノビニ』紙の記者となり、以後死に至るまで多くの記事を執筆した。また劇の脚色や演出にも関係し、女優オルガ・シャインプフルゴバーと結婚。20代の中ごろから創作を開始し、画家で作家の兄ヨゼフ(1887―1945。ナチスの強制収容所で死亡)との共作戯曲『虫の生活から』(1921)などがあるが、劇『R・U・R(エルウーエル)』(1920)で一躍有名になり、新造語「ロボット」robotは世界中に流布した。この作品では、科学技術の発達が人間のエゴイズムと結び付くと、自然のもつ秩序が破壊され、ついには人類絶滅の危険さえあることが指摘されて、一種の予言的作品となっている。長編『絶対製造工場』(1922)、『クラカチト』(1924)などもこの系列に属するSFものである。
彼は自ら深い共感を寄せていた「平凡な」人間をその諸作品の主人公とし、日常細事についての神秘的考察や推理を、ユーモア豊かに表現する能力をもっていた。推理短編集『ポケットから出た話』(1929)などはその一例であるが、より哲学的色彩の濃いものとしては長編三部作『ホルデュバル』(1933)、『流星』(1934)、『平凡な人生』(1934)がある。晩年にはナチスの台頭による危機感が高まったが、それを反映する二つの優れた劇が『白死病』(1937)、『母』(1938)である。そしてこのような各モチーフを結集した傑作は長編SF『山椒魚(さんしょううお)戦争』(1936)であろう。ほかにも小説、劇、童話『長い長いお医者さんの話』(1932)、イギリスやイタリアへの旅行記、評論集、親交のあった大統領マサリクとの対話集など多くの著書がある。とくにフェイェトン(新聞用小品)の数は多く、この点では有名な同国の小説家であり詩人のネルダにも劣らない。死後もいくつもの作品が編集、出版されている。1938年12月25日没。
[飯島 周]
『『チャペック小説選集』全6巻(1995~97・成文社)』▽『『チャペック・エッセイ選集』全6巻(1996~97・恒文社)』▽『千野栄一著『ポケットのなかのチャペック』(1975・晶文社)』▽『イヴァン・クリーマ著、田才益夫訳『カレル・チャペック』(2003・青土社)』
チェコ文学を代表する作家で新聞人。文学のあらゆるジャンルに名作を残した天才で,劇作品《R.U.R.(エルウーエル)》(通称《ロボット》1920)で世界的に有名になり,兄である画家のヨゼフJosef Čapek(1887-1945)と共同で作ったロボット(人造人間)という語は世界中にひろまった。その作品のうち,この《R.U.R.》,《虫の生活》(1921),《マクロプロス事件》(1922)などの戯曲,ユニークな推理短編集《ひとつのポケットから出た語》(1929),園芸随筆《園芸家の十二ヵ月》(1922),童話《長い長いお医者さんの話》(原題《九つのおとぎ話》1932),SF長編《山椒魚(さんしよううお)戦争》(1936)などには邦訳がある。このほか伝記作品の傑作《T.G.マサリクとの対話》(1928-35),代表作といわれる三部作《ホルドバル》(1933),《彗星号》(1934),《ありきたりの人生》(1934),および《イギリスからの手紙》(1924)をはじめとする旅行エッセー集,動物のエッセー《犬も猫も》(1939),芝居随筆《芝居はどのようにして作るか》(1925),さらに文芸評論集《マルシアス》(1931)のいずれも傑作といわれる。チャペックはヒューマニズムの作家で,マサリクの社会民主主義路線の支持者だったため,作品が検閲されたり,出版が禁止されたりしたが,1989年の〈ビロード革命〉後,作品は活発に出版されている。
執筆者:千野 栄一
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…また大衆小説作家としてのベリャーエフの人気にはアメリカでのスペース・オペラの人気に共通するものがあり,ソ連時代のSFを代表するストルガツキー兄弟,ゴルG.S.Gor,ワルシャフスキーI.I.Varshavskiiといった作家たちの作品にはエフレーモフ的なものに対する批判の姿勢もうかがうことができるし,人間の内面性を扱うことで結果的に自由の問題をとり上げているものも多い。東欧圏ではロボットの名を生み出した《RUR――ロッサム万能ロボット会社》(1921)の作者チャペック(チェコスロバキア)は《山椒魚(さんしよううお)戦争》(1936)など多くの優れたSF作品で世界的な影響を残しており,現代ポーランドの作家レムは《ソラリス》《星からの帰還》(ともに1961),《枯草熱》(1977)など,理論科学的な自然認識をもとにした人間哲学と理想社会の追求によって世界的な評価を得ている。他の地域では日本の安部公房やドイツのフランケH.Franke,フランスのキュルバルP.Curval,ジュリM.Jeuryといった作家たちも独自の文学的伝統のもとで優れた作品を書いている。…
…フィンランドのT.ヤンソンはムーミンを主人公にした不思議な世界をつくりあげた。 そのほかの諸国からひろうと,スイスのJ.シュピーリの《ハイジ(アルプスの少女)》(1881)とウィースJ.R.Wyssの《スイスのロビンソン》(1812‐13),ハンガリーのF.モルナールの《パール街の少年たち》(1907),チェコスロバキアのK.チャペックの《童話集》(1932)が見落とせない。【瀬田 貞二】【菅原 啓州】
[カナダ,オーストラリア,ニュージーランド]
カナダにはL.M.モンゴメリーの《赤毛のアン》(1908)があるが,本領はE.T.シートンやロバーツG.D.Robertsによって19世紀末から開拓された動物物語にあり,その伝統はモワットF.Mowat《ぼくのペットはふくろう》(1961),バンフォードS.Bunford《信じられない旅》(1977)に息づいている。…
…有機体と機械を合成したサイボーグも広義のロボットといえ,さらにからくり人形(自動人形automata)の類もロボットの先駆形態と考えることができよう。ロボットという名称が初めて使われたのは,K.チャペックの戯曲《R.U.R.(エルウーエル)》(1920)においてである。これはチェコ語で〈強制労働〉を意味する語ロボタrobotaからきたもので,その点では現代の工業用ロボットの感覚に近い。…
※「チャペック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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