日本大百科全書(ニッポニカ) 「田舎の友への手紙」の意味・わかりやすい解説
田舎の友への手紙
いなかのともへのてがみ
Les Provinciales
パスカルが1656~57年に発表した18通の手紙形式の論争文。原語のまま「プロバンシアル」ともいう。近代主義的なイエズス会と反近代主義的なジャンセニストとの神学上の対立に起因して生まれた文書である。最初の3通は、ジャンセニウスの正統性を主張するアルノーが、パリ大学から譴責(けんせき)されそうになったため、とくに恩寵(おんちょう)の問題をめぐってアルノーを弁護する目的で書かれた。だが、処分決定後、第10の手紙までは、イエズス会の道徳、とくに良心例学(「決疑論」)の徹底的批判が目的となる。ここまではパリの一青年が田舎の友へパリの事情を報告する形がとられるが、第11の手紙以降は直接イエズス会士にあてて書かれ、道徳および恩寵の問題を再考し、イエズス会の弛緩(しかん)し腐敗した道徳観への手厳しい批判が行われる。一連の手紙は当時のベストセラーとなった。パスカルはこの論争文を書くことで、急速に神学者として成長する。また、その文章はフランス古典主義の文体を決定したものだとされる。
[香川知晶]
『伊吹武彦他訳『パスカル全集』全3巻(1959・人文書院)』