百姓網(読み)ひゃくしょうあみ

改訂新版 世界大百科事典 「百姓網」の意味・わかりやすい解説

百姓網 (ひゃくしょうあみ)

浦方百姓=漁民による網漁の経営形態で,単なる漁網の種類ではない。近世漁村では農村同様,百姓身分の構成に変りはないが,宇和島藩,吉田藩にみられる百姓網は漁業年貢,諸役を負担し,村の地先漁場占有利用する浦方百姓のうち,網を世襲的に持っている村役人を除く他の漁民に,臨時的に許可された網漁経営である。それは,漁村にあって漁場占有利用権の弱い小漁民が行う小網漁で,旅網(たびあみ)にも開放された村地先の一部入会漁場で,特権的網漁の間隙に共同網,村網として操業された。百姓網の存在は,中世肥前国小値賀(おぢか)・浦部両島の地頭職青方氏の文書にみえるほど古い(応永7年(1400)〈篤等連署押書状案〉)。近世でもそれを四国,九州地方にみることができる。近世の漁場利用形態は漁村のあり方によって異なるが,伊予宇和島地方の漁村では庄屋,組頭が鰯網漁場を独占的に占有利用しており,採藻,小網漁を行っていた小漁民は,幕末になると入会漁場の利用を足場に,漸次特権的鰯網がもつ操業特権の排除や漁場利用規制の緩和を勝ち取っていった。百姓網はこうした動向の中で,漁場における主体的網漁として成長してくる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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