漁業年貢(読み)ぎょぎょうねんぐ

改訂新版 世界大百科事典 「漁業年貢」の意味・わかりやすい解説

漁業年貢 (ぎょぎょうねんぐ)

村高に結び郷帳に定納が銘記されている小物成(こものなり),あるいは村高に結ばないが郷帳外書に記される(不記入の場合もある)浮役の一種。前者はほとんど山野河海から揚がる収益,後者は魚など収獲浮遊物に対して賦課された貢租で,大きくは夫役的色彩をもつ水主役(かこやく)と農村の田畑貢租に相当する浦役とに分けることができる。これは幕藩制成立期に村方(地方(じかた))との分離によって成立,確定した近世漁村(浦方,および主漁従農の半農半漁村=端浦(はうら))の,地先漁業における封建的漁業権の対価となるものである。つまり,漁業権=地先漁業使用収益権は,その許認可権をもつ封建領主に対して漁業年貢納入の義務を負うことによって認知された。したがって,臨海村といえどもこの義務を負わない村方は漁業に携わることができず,ただ田畑肥料に供するための採藻漁(肥取漁)のみが許されていた。

 当時の浦方漁場のほとんどが総百姓共有漁場で,その利用主体は本百姓である。耕地を有する浦方ではたいていはこの本百姓の持高を軸に年貢が徴収され,その反対給付として年貢負担に見合った漁場占有利用権(漁株制(ぎよかぶせい)への推転も含む)が与えられた。年貢の形態は労役,漁獲物・米などの現物貨幣と種々みられるが,ほぼ米納か代金納であった。現物納は近世初期から中期にかけてみうけられ,代金納は漁村化する臨海村の簇生,漁獲物市場の拡大,漁業生産の伸張が著しくなる中期以降一般化していく。納入形態は別にして,その年貢は商人請負漁業以外は,おおむね村民の連帯責任による浦請の形で納められ,課役の対象も地域を問わず,ほぼ漁場,漁具・船などの生産手段,漁獲物,漁業者に限られている。

 課役の名称は藩,地域,漁業種類によって雑多であるが,大略列記すると,海高,水主役(役米・役銀),網代役,網役,池魚役,川役,海役,船役,御菜魚代,漁猟運上,分一役などがある。いずれも小物成,浮役,運上役,冥加役に分類できる。海高は漁獲高収益の概算額に対し,網代役は海面の占有利用に対して設けられる。漁船を対象とする船役は船種・船数ごとに徴収され,なかには村高に結合しその半分に達する浦方さえ存在した。また網役は網の数,大小,種類で賦課され,固定的定式網役と数の増減にスライドするものとがあった。水主役は水軍の編成,漕船,領主御用に徴発した賦役である。漁獲高の精査に基づく一種の歩合役である分一役は漁獲高の10分の1が一般的であり,とくに時価などの変動要因に左右されない特徴をもつことから,遠隔地漁獲物市場に依存せざるをえない藩・地域には有利な貢租である。したがって,近世中期以降の漁業の発達をうけてこの分一役を採用する藩・地域が増えてくる。これらの漁業年貢は幕府や藩の財政状況・漁政方針,浦方の富裕度と地先漁場の好悪,換金魚種の有無と市場条件,操業技術発展の遅速などの諸条件で貢租名・租率も区々で,しかもかなり領主的恣意による賦課の色彩が幕末まで残存した。そのため,漁業の伸展を背景に租率是正を求める漁民一揆も幕末にかけて頻発してくる。
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百科事典マイペディア 「漁業年貢」の意味・わかりやすい解説

漁業年貢【ぎょぎょうねんぐ】

中世荘園制下で公事(くじ)の他に漁獲物に賦課された年貢。佐渡(さど)・越後(えちご)など北陸の日本海沿岸諸国と,伊豆(いず)・伊勢(いせ)・摂津(せっつ)などの国では月菜(つきな)・節料(せちりょう)として季節ごとに現物・加工品,代銭など多様な形で収取された。近世には小物成(こものなり),浮役(うきやく)として賦課された。漁場占有利用権付与に対しての賦課で,海高・水手(かこ)役・網役・船役・海役などの種類があった。初め現物納も見られたが,中期以降は米納・代銀納となった。

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