漁場(読み)ギョジョウ(その他表記)fishing ground

翻訳|fishing ground

デジタル大辞泉 「漁場」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐じょう〔‐ヂヤウ〕【漁場】

魚などが多くいて、漁業に適した場所。ぎょば。
漁業権が設定される水域。ぎょば。
[類語]漁区

ぎょ‐ば【漁場】

ぎょじょう(漁場)

りょう‐ば〔レフ‐〕【漁場】

漁をするのに適した場所。ぎょば。ぎょじょう。

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精選版 日本国語大辞典 「漁場」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐じょう‥ヂャウ【漁場】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 漁業を行なう水域。魚が多く集まっていて、漁業を行なうのに適した場所。ぎょば。りょうば。
    1. [初出の実例]「vischjaager 漁場ニ行テ魚ヲ買ヒ来ル人」(出典:和蘭字彙(1855‐58))
  3. (りょう)を行なうものの集まる所。漁師町。
    1. [初出の実例]「雨に敲かれてゐる漁場の町の、暗い閑散とした大通り」(出典:黯い潮(1950)〈井上靖〉二)

ぎょ‐ば【漁場】

  1. 〘 名詞 〙ぎょじょう(漁場)
    1. [初出の実例]「父親が樺太の漁場(ギョバ)で失敗したのが」(出典:澪(1911‐12)〈長田幹彦〉二)

りょう‐ばレフ‥【漁場】

  1. 〘 名詞 〙 魚や貝が多くとれる場所。漁業に適した場所。猟場。
    1. [初出の実例]「流人も段々業染みて漁場(レフバ)へ魚を貰ひに来たり」(出典:歌舞伎・牡丹平家譚(重盛諫言)(1876)大詰)

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改訂新版 世界大百科事典 「漁場」の意味・わかりやすい解説

漁場 (ぎょじょう)
fishing ground

〈魚族の群れている場所へ行って採捕し,これが“経済的営業たる漁業”として成立し得るような場所〉という定義がある(宇田道隆,1960)が,〈魚族〉はもう少し一般的には,〈魚介類あるいは水産生物〉としたほうがよい。漁場成立の条件には(1)水産生物のある密度以上の存在という自然的条件と,(2)それを採捕して利益をあげることができるという社会経済的条件との二つがあることが理解される。漁業は人の行う社会経済的営為であるから,どんなに多くの魚介類が存在しても,とる技術がなければ漁業は成立しないし,技術があっても,漁獲物が引き合う値段で売れなければやはり漁業は成立しない。したがって古くから開発された漁場は需要の多い大消費地に近く,技術が発達した先進工業国の沿岸や沖合に多い。

もちろん漁場成立の基礎として,自然条件,生物が濃密に分布することは重要である。漁業が対象とする魚群は産卵期に産卵場に集まっているものか,索餌域に集群しているものであるのが普通である。産卵群にしても,稚魚の餌環境が重要である。魚群が濃密に分布するのには餌料が大切で,したがって水域の生産性が高いことが必要である。生産の基礎は一次生産,すなわち植物の光合成にあり,水域では植物プランクトンと藻類がこれを行う。光と栄養塩が豊富であることが生産性の高い要件であり,光は深いところまではさしこまないので,生産は浅海部に限られる。海の浅い部分への栄養塩の供給は陸から行われるほか,海底からも行われる。生物の排泄物,遺体などは海底へと沈降するので,海底には生物起源の堆積物がたまり,底層水は栄養塩が豊富である。この豊富な栄養塩が表層に還元されうるような水域は生産性が高いことになる。一般に大陸棚は陸水の流入に伴う陸上からの栄養塩類の供給によって生産性が高いが,ベーリング海東部のような高緯度海域では冬の大気冷却がひき起こす鉛直混合によって底層の栄養塩が表層に還元することも高生産に大きく寄与している。また,海流,地形,季節風などの影響で湧昇流が存在するようなところは,この力で下層の栄養塩が表層にもたらされるのでやはり生産性が高い。こういった生産力が高い水域であることが基礎となり,さらに必要な条件が満たされて漁場が成立するわけであるが,その成立ち方から漁場を分類することができる(図)。

(1)陸棚漁場 最も古くから開発され,現在でもさかんに利用されている漁場である。世界の漁業生産のほぼ半分はこの陸棚域から生産されているといえよう。

(2)堆礁漁場 海底から隆起した堆や礁も古くから漁場として利用されてきた。海岸に近い魚礁では瀬付き性の魚群を対象とした釣り漁業などが行われ,海洋中の礁では,カツオ,ビンナガなど沖合性表層回遊魚が滞留するのをねらって一本釣りが行われる。

(3)潮境域漁場 潮目,潮境は古くから生物が集まり,好漁場となることが知られていた。潮境の凸凹出入りが大きいほどよく集まる傾向がある。潮境域は渦動現象が発達し湧昇を生じさせ高生産が維持されること,浮遊生物が集積すること,生物分布に対して一種の障壁効果をもつことなどから魚群の分布が濃密になり,好漁場を形成させると考えられる。三陸沖は黒潮・親潮がぶつかって激しく入り組み,寒流系・暖流系の魚が集まり,好漁場となっている。

(4)湧昇流域漁場 生産性がひじょうに高い水域で,好漁場となることが多い。ペルーからチリの沖は大規模な湧昇流のある水域で,生産性が高く,1970年にペルーは世界の漁獲量のほぼ1/6にあたる1260万tという世界一の漁獲量を記録したことがあるが,このうち1000万t強がカタクチイワシの漁獲であった。

(5)渦流域漁場 潮境の両側にできる渦流,あるいは海底地形海岸地形によって流れのかげのほうに生ずる地形性の渦などは,生物生産や魚群の分布,移動に関しても重要な意義をもっていると考えられており,こういうところにも漁場が形成される。

現実の世界の漁獲量の分布をFAOのまとめで見ると,北海・大西洋北東部,アメリカ大西洋岸北部・大西洋北西部,それに日本近海を含む太平洋北西部で漁獲量が多い。これが世界の三大漁場といわれるもので,これに先に触れたチリ,ペルー沖を加えて四大漁場ということもある。北海,大西洋北東部は最も古くから開発された漁場で生産性も高いが,周囲にイギリス,フランス,ドイツ,スペイン,デンマークノルウェーなど先進工業国が多く,漁業の技術的な面からも漁獲物の需要の面でも,漁場の成立する好条件をそなえた水域である。おもな魚種はタラ,ニシン,カレイ,ヒラメ類である。大西洋北西部は,ニューファンドランドラブラドルノバ・スコシアニューイングランドにまたがる水域だが,タラ類(タラ,ハドック,ポラック),カレイ類,ニシン,サバが多い。日本近海から朝鮮,中国沿岸を含む太平洋北西部は上記2漁場より開発は遅れたが漁獲量は多い。上記2漁場の平均的な漁獲量が1km2あたり5~10tなのに対し,約20t/km2である。これは大西洋の2漁場の漁獲物が底魚に偏しているのに対し,太平洋北西部ではニシン,イワシ,アジ,サバといった浮魚類(スルメイカ,サンマも含めて)を,スケトウダラ,カレイ・ヒラメ類といった底魚とともにとっているからである。サケ・マス,カツオ,マグロ類も水揚げされ,種類は最も豊富である。

 なお,漁場はその水域区分に従って,内水面漁場,沿岸(近海)漁場,沖合漁場,遠洋漁場と分けられ,また,対象種の名をつけて,イカ漁場,サバ漁場,カニ漁場などと呼ばれることもある。また漁法名をつけてはえなわ漁場,巻網漁場などとも,地域名をつけて北洋漁場,南氷洋漁場などともいう。

よい漁場には多くの漁業者が集まる。そこでは往々にして漁場紛争を生じる。日本沿岸のようにかなり過密に漁業が行われていると,刺網,筒,たこつぼなどが設置してある上を底引網が引いてしまうなどのことはよくある。互いに操業区域の規制はしているのだが,なかなか避けられない。漁場の管轄権争いは古くから記録されているが,漁場紛争が起こりやすいのは,新旧漁法が同一漁場で操業する場合である。例えば八戸沖は昔からイカ釣りおよびサバ釣りの好漁場であったが,1965年ころから大型のサバ巻網が進出するに及んで,イカ釣り,サバ釣りとも大打撃を受け,漁場では漁具の破損,漁船の衝突事故が絶えなかった。結局,協定が締結され,何回もの改訂を経てやっと共存の道が開けたが,これには10年以上かかっている。国際的な紛争も数多くあるが,中でも有名なのはアイスランドとイギリスのタラ戦争であろう。輸出の80%を水産物が占める水産国アイスランドが好漁場である自国の近海の資源を守るため,領海を広げてイギリス,ドイツのトロール船を締め出そうとして起きたもので,領海を12カイリにした1958年からの第1次,50カイリに広げた72年からの第2次,さらに200カイリ制を布いた75年からの第3次と長年にわたって続いた。近年ではイギリスとデンマークの間でのサバ戦争,ホンコン,ベトナム,中国でのフカひれ戦争がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「漁場」の意味・わかりやすい解説

漁場
ぎょじょう

漁業生産の対象となる水界の動植物が密集している水域で、その捕獲・採取活動が行われる場をいう。また沿岸水域で施設を用いてカキ、ノリ、ワカメなどの動植物の繁殖・生育を管理する区域を養殖漁場という。

[高山隆三]

漁場の自然条件

漁場形成の客観的条件は、水界の動植物の繁殖・生育に適した自然環境である。一般的には、魚類その他の生物の生活にとって水温が適温で、栄養分や餌(えさ)に富み、地形や水質などが生育や産卵に適した性質を備えた水域である。魚類等の生育に不可欠な餌が豊富な水域とは、植物プランクトンが多量に繁殖する水域である。植物プランクトンの繁殖には、炭酸化合物と光のほかに、窒素、リン、ケイ素という栄養塩類を必要とする。水界では、この栄養塩類は動植物の死体が分解してできるのであるが、それはほとんどが水底に沈んでおり、太陽光線が届かない深い水底にある場合には、植物プランクトンはその栄養分を利用しえない。したがって植物プランクトンが多量に繁殖する水域というのは、第一に水底まで陽光が透過する沿岸の浅瀬や、水深200メートルまでの大陸棚である。第二に水底の栄養塩類が対流によって水界の表層に運ばれる水域である。この対流は寒帯・亜寒帯水域で大規模におこる。この水域では冬季に気温が大きく低下するので、水面が冷やされ、表面の水の密度が大きくなってそれが沈降する。その結果、対流がおこるのである。第三に暗礁や浅瀬など海底が突起している水域。そこでは底層の栄養塩類に富む海水を表層に湧(わ)き出させる湧昇流(ゆうしょうりゅう)が生ずるのである。第四に暖流と寒流というように、水温や塩分濃度の異なる海水が接してつくる潮境(しおざかい)である。この潮境の水域も、流速の相違なども作用して対流がおこり、栄養分が豊富となるのである。以上あげたような水域には、大量の植物プランクトンとそれを餌とする動物プランクトンや小魚が繁殖し、餌を求める魚類等が集まってくる。こうして形成される漁場が索餌(さくじ)漁場である。

 魚類等は摂餌期を経て、産卵期を迎える。たとえばシロザケは餌の豊富な北洋で3~4年を過ごし、産卵期が近づくと生殖の相手を求めて母川(ぼせん)沿岸に集まってきて、やがて、稚魚の時期を過ごした母川を遡上(そじょう)する。この時期にはシロザケは餌をとらなくなり、ただ、適した産卵床を探し求めるのである。このように生殖の相手を求めながら産卵に適した水域に魚類が密集して形成するのが産卵漁場である。

[高山隆三]

漁場の開発

漁場は、以上のような自然的条件を基礎として、それを捕獲・採取する生産活動によって成立する。漁場は漁獲対象の魚種によって、イワシ漁場、サンマ漁場などに分類され、漁具・漁法によって、底引網漁場、釣り漁場、刺網漁場などに、また水域によって、沿岸、沖合、遠洋漁場に分類される。さらに魚種と漁法とを組み合わせて、イワシ巻網漁場、ブリ定置網漁場、サケ・マス流し網漁場、また海域と組み合わせて、北洋サケ・マス漁場、北洋トロール漁場などに分類される。このように、漁場が漁業生産活動の形態と魚種によって分類されるのも、漁場が漁業の技術的、生産力的発展にしたがって歴史的に形成されてきたからである。漁業生産力の発展が、それまで未開拓であった水域の水産資源の漁獲を可能とし、それが漁業経営に大きな収益をもたらしてきた。しかも広大な公海の水産資源はだれの所有にも属さない、自由に漁獲しうる資源であったから、優良な漁場をだれよりも早く発見し漁獲するために、漁業者は漁船の大型化、動力化、網の改良に努め、その結果、今日までに、世界中の水域の主要な漁場のほとんどを開発してきた。しかし、未利用の水産資源の利用方法が開発されれば、今後も新たな漁場が形成されるのである。北部太平洋海域に豊富に生息していたスケトウダラを、船上ですり身に加工する技術が開発されたのは1960年代のことであった。そのとき以降この海域はトロール漁業の優良漁場となったのである。歴史的には、漁場は先進諸国によって開発されてきたから、北半球の漁場開発が進んでおり、世界の三大漁場といわれる北東大西洋漁場、北西大西洋漁場、北西太平洋漁場はいずれも北半球にある。南半球は、ペルー沖合いのイワシ漁場と、南氷洋の鯨漁場以外は、開発の歴史が浅い。

[高山隆三]

今日における漁場問題

漁場、魚群の発見には、かつては鳥の群がる状況や海水の色の変化などを手掛りとしていたが、現代では精度の高い魚群探知機が開発され、海洋の性質や海底の地形、魚類等の生態に関する情報量が増し、漁場開発の不確実さが小さくなってきた。わが国では、人工衛星によって海水温・海流などを観測して、その情報を漁船に送信する漁場情報システムも開発されてきている。

 漁場開発と漁獲技術の歴史的発展過程で、国内的にも国際的にも優良漁場の占有・利用をめぐって紛争が生じ、漁場の利用方法を規制する漁業法などの法律が施行され、国際的には漁業条約・漁業協定が結ばれてきた。国際的な優良漁場は、1970年代後半に各国が200海里経済水域を設定したことによって、各国の管轄下に置かれることになり、その利用秩序は大きく変化したのである。他方、わが国の沿岸水域では、とくに第二次世界大戦後の経済発展に伴い、優良漁場の埋立てが進行し、また工場・生活排水によって水質が汚染され、漁業生産力の上昇によって引き起こされてきた乱獲と相まって、沿岸漁場が荒廃してきており、政府・地方自治体の水産行政当局者、地域の漁業協同組合と漁業者は、漁場の保全・回復と人工魚礁などによる漁場の造成に努めている。

[高山隆三]

『谷川英一・田村正他著『新編水産学通論』(1977・恒星社厚生閣)』『川崎健著『魚と環境』(1977・海洋出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漁場」の意味・わかりやすい解説

漁場
ぎょじょう
fishing ground

魚介類が一定期間群集したり通過するかして,その分布密度が高く,その水域へ行って漁獲することが経済的に漁業として成立しうる水域。沿岸の浅瀬や大陸棚,島や暗礁のあるところ,寒流暖流の交錯する潮境などが漁場となる。これは,異なった性格の潮流のぶつかり合いや妨害物などによって海水の流れが乱され,水の上下混合がよくなされ,栄養塩類の供給がよく,プランクトン藻類など魚の餌料浮遊物の繁殖が盛んになるためである。また魚の産卵に適した場所も漁場を形成する。世界的な漁場としては,日本近海,北海,ニューファンドランド近海(→グランド堆ニューイングランド)が有名で,世界三大漁場と呼ばれる。チリ・ペルー沖を含めて世界四大漁場とする場合もある。

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百科事典マイペディア 「漁場」の意味・わかりやすい解説

漁場【ぎょじょう】

魚群が濃密に分布し漁業に適している水域。食物の豊富なこと,産卵に適すること等の条件があげられる。前者は上下に水の混合がよく行われ,プランクトンの繁殖が盛んな所がよく,大規模なものは寒暖流のぶつかる所にあり,そのほか沿岸の浅い所,大陸棚上,島のある所,暗礁や瀬。後者にはサケ,マスが群れて川をのぼる所,沿岸の藻類に産卵のためニシンの群来する所等。北海からノルウェー近辺の北欧漁場(タラ,ニシン等),米国大西洋岸北部漁場(タラ等),日本近海からアレウト諸島に至る太平洋北西部漁場(サンマ,カツオ,サケ等)は世界三大漁場と呼ばれる。
→関連項目漁業権漁村

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世界大百科事典(旧版)内の漁場の言及

【漁業】より

…また建網(定置網類)は水中に垣網をたてて回遊魚群をふくろ網に誘導,捕獲する漁網であり,江戸時代に著しく発達したが,これにも漁夫数十人を要する大型漁網が少なくなかった。 これらの漁業の経営を述べるには,まず漁場制度に触れなければならない。漁業は天然に生息する魚介藻類を採取する産業であるから,そのための場である漁場がひじょうに重要である。…

【境】より

…惣村の成立とともに,近江の菅浦荘の例のように惣村の門が設けられるようになる。漁村でも,漁場が次のような境の設定方法によって確立してくる。(1)海中の島や岩などの目標物を境として漁場の範囲を示す場合,(2)水面の面積や陸からの距離の計測による場合,(3)いわゆる〈山アテ〉や〈見通し〉のように陸上の目標物によって境界線を定める場合,(4)海路(うなじ)(沖合を通る航路)を境界線とする場合,(5)湖とか湾の真ん中を境とする場合,の五つの基本的な方法によって漁場の境が決められたようである。…

※「漁場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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