改訂新版 世界大百科事典 「社会的福音」の意味・わかりやすい解説
社会的福音 (しゃかいてきふくいん)
Social Gospel
南北戦争後のアメリカで,工業化と都市化に伴い資本主義のもたらす社会問題が表面化したとき,キリスト教の福音の視点から社会問題と取り組みそれの解決を試みたプロテスタント教派内の運動。それまで個人の魂の救いのみにかかわっていた福音を,社会的な救いをももたらす福音として理解し,児童労働の廃止,労働条件の改善などの,主として労働者の社会問題に取り組み,19世紀末から20世紀初期にいたるアメリカの教会と神学の一大勢力となった。代表的な指導者には,オハイオの会衆派教会の牧師で《社会的救い》(1902)を書いたグラデンWashington Gladden(1836-1918),ハーバード大学の神学教授でユニテリアン派の牧師ピーボディFrancis G.Peabody(1847-1936),シンシナティの会衆派教会の牧師で福音派同盟の総幹事として運動を組織化したストロングJosiah Strong(1847-1916),そして社会的福音を人々の心と魂に訴えた北バプティスト派のロチェスター神学大学教授ラウシェンブッシュWalter Rauschenbusch(1861-1918)がいる。とくにラウシェンブッシュの《キリスト教と社会的危機》(1907)や《社会的福音の神学》(1917)は多くの人々に読まれた。1908年には超教派的組織の〈教会連盟〉が設立されたが,しだいに組織化された労働運動にその役割を奪われていった。また,29年の大恐慌以後,その楽観的人間観などが,神学者R.ニーバーらによって批判されたが,教会に社会意識をもたらした功績は大きい。
執筆者:古屋 安雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報