日本大百科全書(ニッポニカ) 「神代史の新しい研究」の意味・わかりやすい解説
神代史の新しい研究
じんだいしのあたらしいけんきゅう
津田左右吉(そうきち)の著書。1913年(大正2)刊。白鳥庫吉(しらとりくらきち)の序文のある著者最初の単行書。このあとに『古事記及び日本書紀の新研究』(1919)、『神代史の研究』(1924)など古典研究の系列が展開し、『文学に現はれたる我が国民思想の研究 貴族文学の時代』(1916)に始まる通史の系列と相並行して、本書は津田史学の主脈をなした。内容は、新井白石(あらいはくせき)や本居宣長(もとおりのりなが)の説を厳しく批判し、日本の神代史を創作者の心理に力点を置いて分解し、その骨子を(1)日神・スサノヲ・国譲・皇祖神の神話(もっとも古く雄略(ゆうりゃく)・継体(けいたい)ごろに成立)、(2)二神の国生み、血族主義による脈絡づけ(顕宗(けんそう)・仁賢(にんけん)ごろに成立)、(3)天孫降臨・神武(じんむ)東征(もっとも新しく推古(すいこ)以前に成立)とみて、中心点は、太陽神で血統の中心である皇室の祖先の尊厳を説くにありとし、これは歴史的事実でなく、宮廷の識者が企図的につくった影の世界だとした。40年(昭和15)本書は右翼に告発され、他の3著書とともに発禁処分を受けた。
[原田隆吉]
『津田左右吉研究会編・刊『思想の研究』創刊号~第5号(1967~69)』▽『家永三郎著『津田左右吉の思想史的研究』(1972・岩波書店)』▽『上田正昭編『津田左右吉』(1974・三一書房)』