日本大百科全書(ニッポニカ) 「神奈備種松」の意味・わかりやすい解説
神奈備種松
かんなびのたねまつ
『うつほ物語』(吹上―上)に記された紀伊国(和歌山県)の長者。説話上の人物。紀伊の「国のまつりごと人」であったが、平安貴族の目からみると拙(つたな)き「百姓(ひゃくせい)」でしかなかった。しかし、その家政機構は、家司(けいし)30人がいる政所(まんどころ)を中心として、たてま所、大炊殿(おおいどの)、御炊屋(おかしきや)、酒殿、作物所(つくもどころ)、鋳物師(いもじ)所、鍛冶(かじ)屋、織物所、檜皮(ひわだ)屋、縫物所、糸所、染殿などを備えた豪華なものとして描写されている。かつては、誇張されているとはいえ、大名主(だいみょうしゅ)経営の一典型としてとらえられていたが、新しい視角からの位置づけが必要であろう。
[荒木敏夫]