広津和郎(かずお)の短編小説。1917年(大正6)10月号の『中央公論』に発表。翌年新潮社刊の同名の短編集に収録。主人公の新聞記者鈴本定吉(さだきち)は気質も優しく、容貌(ようぼう)も人並みだが、意志が弱く、神経の暗示のままに動き、つねに自己の意志と行動の分裂を感じている。職場では権力に弱く腐敗した社内の空気に義憤を覚えるが抗議することもできず、家庭では愛しえない妻との不本意な結婚生活が惰性的に続いていく。『毎夕新聞』記者時代の経験と当時の作者の私生活に取材し、自己と周囲の友人たちを含めた当時の知識層の自己喪失、すなわち性格破産の悲劇を時代の病理現象として描いたところに作者の意図と題名の由来がある。広津の文壇への出世作で、知識人の弱さを扱った先駆的作品。
[橋本迪夫]
『『日本近代文学大系40 広津和郎・宇野浩二・葛西善蔵集』(1970・角川書店)』
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