日本大百科全書(ニッポニカ) 「福富草紙」の意味・わかりやすい解説
福富草紙
ふくとみぞうし
室町前期(15世紀)の絵巻。放屁(ほうひ)の珍芸のため富を得、財をなした高向秀武(たかむこのひでたけ)という老人と、これをまねて失敗した隣家の福富老人の物語を描く。上下2巻からなり、上巻には貧乏な秀武が妙音を発する放屁術をもって人々を喜ばせ、貴紳より宝物を得て裕福になる話、下巻は金欲しさに福富がこれを試み、失敗して罰せられる話を対照させて収める。昔話の「隣の爺(じじ)」譚(たん)によったもので、内容的にも「屁(へ)ひり爺」「鳥呑(とりの)み爺」と材料を同じくした、笑話風の通俗的内容をもつ。また画中に台詞(せりふ)を書き入れるなど、御伽(おとぎ)草子絵巻の先駆的な作例にあげられる。室町時代以来、御伽草子として広く流布したとみられ、多くの伝写本や異本(下巻を編み直して読み物化した1巻本『福富長者物語』など)が伝わる。京都・妙心寺春浦(しゅんぽ)院蔵の2巻はもっとも有名で、暢達(ちょうたつ)な描線を駆使した作品。また、アメリカのクリーブランド美術館本(下巻のみの1巻)も同じ時期の作とみられるが、優れた筆致で描かれ、かつて冷泉為恭(れいぜいためたか)の所蔵と伝える。
[村重 寧]
『小松茂美編『日本絵巻大成25 福富草紙他』(1979・中央公論社)』▽『市古貞次校注『日本古典文学大系38 御伽草子』(1958・岩波書店)』