日本大百科全書(ニッポニカ) 「私家版印刷所」の意味・わかりやすい解説
私家版印刷所
しかばんいんさつじょ
private press
活版印刷術とか美しい本作りに関心をもち、印刷者の好きな方法で、好きな内容の本を刷る印刷所のこと。書誌学者で愛書家のジョン・カーターJohn Carter(1905―75)は、これに「手で活字を組み、手引き印刷機で刷る」という条件を加えている。この印刷所で刷られたものが私家版である。
本を私的に刷った例は古くからみられる。しかし、印刷者の好みで刷った本が西洋で話題になったのは、19世紀後半のイギリスで私家版や美本を刷る運動がおこり、その結果が、衰退していた商業印刷物の印刷に大きな影響を与えたからであった。この運動はウィリアム・モリスのケルムスコット印刷所に始まり、彼の意図はホーンビーCharles Harry St. John Hornby(1868―1933)のアシェンデン印刷所、コブデン・サンダスンT. J. Cobden-Sanderson(1840―1922)とエメリー・ウォーカーEmery Walker(1851―1933)のダブズ印刷所などの私家版印刷所に引き継がれ、伝えられていった。
[高野 彰]
『S・H・スタインバーグ著、高野彰訳『西洋印刷文化史』(1985・日本図書館協会)』▽『Roderick CaveThe private press (1971, Faber and Faber, London)』