日本大百科全書(ニッポニカ) 「程大位」の意味・わかりやすい解説
程大位
ていだいい
(1533―1598ころ)
中国、明(みん)代の民間数学者。安徽(あんき)省休寧(きゅうねい)県の人。字(あざな)は汝思(じょし)。号は賓渠(ひんきょ)。明朝では、古い高等数学書が失われ、アカデミックな数学が衰微したが、彼は幼少より数学を好み、壮年時代には華中の各地を歩いて数学者を訪ね、江南の旅の間にも数学書を捜し求めて研究を重ね、のちに安徽省新安に落ち着いた。1592年に『新編直指算法統宗(さんぽうとうそう)』(略して『算法統宗』)17巻を著し、1598年にはこれを簡略化した、『算法纂要(さんよう)』4巻を編集した。『算法統宗』はこの時代に多く書かれた通俗数学書の一つで、呉敬の『九章算法比類大全』(1450)の影響を強く受けている。宋(そう)・元時代に発達した方程式、方陣、そろばん、歌訣(かけつ)(記憶に便利なように口調のよい歌にしたもの)なども扱っているが、古来の数学を『九章算術』の形式に従って編集しただけで、独創性はない。しかし、まれにみるベストセラーとなり、日本の吉田光由(みつよし)がこれを手本にして書いた、『塵劫記(じんごうき/じんこうき)』も日本で大好評を博するなど、和算に与えた影響も大きかった。
[宮島一彦]
『銭宝琮編、川原秀城訳『中国数学史』(1990・みすず書房)』▽『藪内清著『中国の数学』(岩波新書)』