日本大百科全書(ニッポニカ) 「稚日女尊」の意味・わかりやすい解説
稚日女尊
わかひるめのみこと
書紀神話の素戔嗚尊(すさのおのみこと)乱行の一伝で、尊(みこと)が逆剥(さかは)ぎの馬を織機殿(はたどの)に投げ入れたために梭(ひ)で傷ついて去る神。紀本文では、大日孁(おおひるめ)ともよばれる天照大神(あまてらすおおみかみ)の話となっているため、ここの稚日女尊はその分身と考えられる。この尊は『神功(じんぐう)摂政前紀』にも「尾田の吾田節(あがたふし)の淡郡(あわのこおり)にある神」と名のり、皇后の半島平定後ふたたび天照大神、事代主神(ことしろぬしのかみ)、住吉(すみよし)三神とともに武庫(むこ)(武器庫)で託宣し、海上五十狭茅(うなかみのいさち)によって生田(いくた)神社(神戸市)に祀(まつ)られる。この記事は、生田神社の創始を国家の祭祀(さいし)に由緒づけて添加したもので、ここの稚日女尊には、日の御子(みこ)漂流を主題とする大比留女(おおひるめ)信仰のおもかげがなお残っている。
[吉井 巖]