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漂流 ひょうりゅう drifting

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

漂流
ひょうりゅう
drifting

海に浮ぶ物が風や海流に流される現象。植物や動物が漂流して分布が広がることはよく知られており,南方系のココヤシの実が日本の本州南部の海岸に達したり,北方系のハマナス山陰地方の海岸まで分布するのはこの例といわれる。

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デジタル大辞泉の解説

ひょう‐りゅう〔ヘウリウ〕【漂流】

[名](スル)
風や潮のままに海上をただよい流れること。「ボートで―する」
あてもなくさすらい歩くこと。放浪。「―生活」

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世界大百科事典 第2版の解説

ひょうりゅう【漂流】

海に浮かぶ物が海流や風に流されていく現象。漂流物により植物分布が拡大していることはよく知られている。また漂流物により海流の状況が明らかになることもある。昔から難船漂流の悲劇は洋の東西を問わずきわめて多い。漂流には学術上の目的で行ったものと,海難事故によるものがあり,前者では1947年T.ヘイエルダールが人類学上の自説を立証するため,〈コン・ティキ号〉と名づけたいかだで太平洋横断を決行した例(《コン・ティキ号探検記》),52年アラン・ボンバールが海の魚とプランクトンだけを食べ,海水と雨水で渇きをしのぎ,単身〈異端者号〉と名づけたゴムボート大西洋横断漂流に成功した例(《実験漂流記》),日本では数次の漂流実験後,75年斎藤実が〈ヘノカッパII世号〉でサイパン島から沖縄に向かって漂流実験した例(〈漂流実験〉)などが著名である。

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大辞林 第三版の解説

ひょうりゅう【漂流】

( 名 ) スル
船などが海上をただよい流されること。 「嵐の海を-する」 「 -物」
あてもなくさすらうこと。 「余の考えがここ迄-して来た時に/草枕 漱石

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

漂流
ひょうりゅう

難船などによって、操縦不能の船上で、または浮遊物につかまり、海上をあてもなくさまようこと。漂流によって陸上に達した場合には漂着であるが、そこが人間社会と隔絶した孤島などのときには、これも漂流に入れる場合もある。[梶 龍雄]

漂流と文化交渉

海上交通も未発達で、船による目的のある長い航行も不能であった時代には、民族の移動や文化の伝播(でんぱ)には、漂流の果たした役割は大きかった。日本民族の成立論などにある、南方系民族の混血説なども、黒潮に乗った漂流によるものである。1947年ノルウェーの考古学者、人類学者ヘイエルダールが、南太平洋諸島先住民の南アメリカからの移動説証明のために、インカ時代の船をかたどったバルサ材の筏(いかだ)コン・ティキ号で意図的に漂流したのも、このためである。その後しだいに文明が発達していった近世に至っても、海を隔てた大陸間や国の間の交通は、かならずしも便利ではなかったから、偶発的な漂流が人類文化の歴史のうえで少なからず大きな役目をした。イギリス人ウィリアム・アダムス(日本名・三浦按針(あんじん))が1600年(慶長5)難船によって日本に漂着し、鎖国政策の徳川幕府に仕えて、洋船建設技術や外交に貢献したり、また、逆に1841年(天保12)遭難後した中浜万次郎(ジョン・万次郎)や、1850年(嘉永3)漂流の浜田彦蔵(アメリカ彦蔵)のように、アメリカ船に救助されてアメリカに行き、英語や西欧の事情に通じて、帰国後は開国後の日本で、通辞として活躍したり、外交や文化啓蒙(けいもう)に尽くしたりしたのも、その例である。[梶 龍雄]

実話としての漂流

大洋のただ中をさまよう漂流は、筏や漂流物につかまっての海上漂流はもちろん、船上の漂流でも、肉体、精神ともに困苦の極に追い詰められることが多いため、驚異的な話や、ときにかなり潤色された疑いのものもある。漂流は浦島説話を生むことも多い。1719年(享保4)遠州新居(あらい)(現、静岡県湖西(こさい)市)の水夫12人は九十九里浜沖で暴風雨のため遭難漂流し、無人島に漂着して困苦の生活に耐え、仁三郎ほか3人がようやく故郷に帰りついたときには、21年が経過していた。たった1人での水上漂流世界最高耐久記録は、中国人プーン・リームの133日と思われる。1943年、彼の乗っていたイギリス輸送船が、南アフリカ、ケープタウン沖でドイツ潜水艦に撃沈された。浮遊物で筏をつくり、わずかに拾い集めた道具類で雨水をため、針金を曲げて釣り針をつくって魚を釣り、困苦に耐えた彼が救われたのは、大西洋を横断したアマゾン河口沖であった。しかしその際に、体重はわずか4キロ半しか減っていなかったという。
 漂流船舶が救助されず乗員全部が死亡すれば幽霊船となる。1926年(大正15)12月千葉県銚子(ちょうし)港を出港したマグロ漁船良栄丸は、翌年の秋に幽霊船としてバンクーバー沖で漂流中を発見された。乗組員は全部白骨体となっていたが、残された航海日誌でその間の経過は判明した。幽霊船のなかには、1913年チリ沖で発見されるまでに23年間も漂流していたイギリス船マールボロー号のような例もある。同船は1890年1月マゼラン海峡で目撃されたのを最後に消息を絶ち、発見時には、船員の何人かの骨のほかは、航海日誌も発見できなかった。漂流事件のなかで世界の大きな謎(なぞ)の一つとされているのはイギリス船マリー・セレスト号の事件で、1872年ポルトガル沖を漂流中を発見されたときには、乗員全部の姿がまったくかき消えていたのに、船内はきれいに整頓されてなんの騒ぎの跡もみられなかった。この解釈をめぐりいろいろの説が出されたが、まだ完全には解けていない。[梶 龍雄]

漂流記録と文学

漂流には奇異な話、冒険的な話、異国情緒に富んだ話が付きまとうので、漂流の体験を記録した漂流記は数多く残されている。とくに日本の江戸時代の鎖国では、海外の文化や消息の流入は限られていたから、漂流者の体験は貴重なものであった。伊勢(いせ)の大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)の、北洋を漂流し、ロシアに保護されて帰国するまでの体験を、幕府の侍医桂川甫周(ほしゅう)が記録した『北槎聞略(ほくさぶんりゃく)』(1794)、仙台藩の蘭学(らんがく)者大槻玄沢(おおつきげんたく)が、津太夫らの漂流とロシアの風物見聞を記録した『環海異聞(かんかいいぶん)』(1807)などがそれである。また、回船、長者丸で太平洋上を漂流し、アメリカ捕鯨船に救助され、ハワイ、ロシアを経て送還された次郎吉以下6人の船乗りの体験は、幕府の儒学者古賀謹一郎(こがきんいちろう)によって記録され『蕃談(ばんだん)』(1849)となったが、同時に漂流民の故郷である富山藩の家臣遠藤高環(たかのり)も、彼らの談話を記録して、『時規物語』(1850)を著した。これらの記録には、漂流者自身の体験ばかりでなく、すでに海外の文化に対して目を開き始めた記録者自身が得た、さまざまな知識も交じり、近づく開国の気運の底流をつくったことも見逃せない。
 漂流はまた限界状態における人間の本質性をつく深刻なテーマだけに、小説にもよく扱われる。実在の人物アレクサンダ・セルカークの無人島漂流をヒントに書かれたというデフォーの『ロビンソン・クルーソー』(1719)、漂流中の飢餓からよくおこるといわれる人肉食いを扱った野上弥生子(やえこ)の『海神丸』(1922)、井伏鱒二(ますじ)の前述の長者丸の漂流記録をヒントにした『漂民宇三郎』(1956)、大黒屋光太夫がテーマの井上靖(やすし)の『おろしや国酔夢譚(すいむたん)』(1968)などがある。[梶 龍雄]
『荒川秀俊編『異国漂流記集』(1962・吉川弘文館) ▽荒川秀俊編『日本漂流漂着資料』(1962・地人書館) ▽荒川秀俊編『近世漂流記集』(1969・法政大学出版局) ▽川合彦充著『日本漂流記』(社会思想社・現代教養文庫) ▽庄司浅水著『海の奇談』(社会思想社・現代教養文庫) ▽室賀信夫・矢守一彦編訳『蕃談』(1965・平凡社・東洋文庫)』

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