第一書房(読み)だいいちしょぼう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「第一書房」の意味・わかりやすい解説

第一書房
だいいちしょぼう

1923年(大正12)長谷川巳之吉(はせがわみのきち)(1893―1973)が創業した文芸書出版社。ベストセラーとなった松岡譲(ゆずる)の『法城を護(まも)る人々』を処女出版に、堀口大学、上田敏(びん)、木下杢太郎(もくたろう)、萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)らの詩歌文芸書は著名であるが、在野の哲学者土田杏村(きょうそん)、新人作家の田中冬二(ふゆじ)、三好(みよし)達治らの著書を世に出し、気概ある出版社として知られた。一方、装丁に一家言をもつ長谷川による第一書房本は、堀口の訳詩集『月下一群』(1925)にみられるように、唐草(からくさ)模様の表紙、背革金箔(きんぱく)押し、天金、挿絵入りの美本を豪華本と称して愛書家を喜ばせた。昭和初頭の円本競争では『近代劇全集』を出版し好評を得たが、営業的には失敗し、債務の返済に苦心した。雑誌は、詩誌『パンテオン』『オルフェオン』、文化評論誌『セルパン』などを発刊した。1940年(昭和15)ヒトラーの『我が闘争』(室伏高信(むろぶせこうしん)訳)などを戦時体制版と名づけ廉価で売り出しベストセラーとなる。出版一代論を唱えた長谷川は44年、いっさいの権利講談社に譲渡し第一書房を廃業した。

[大久保久雄]

『林達夫他編著『第一書房長谷川巳之吉』(1984・日本エディタースクール出版部)』

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