日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済学・哲学手稿」の意味・わかりやすい解説
経済学・哲学手稿
けいざいがくてつがくしゅこう
ökonomisch-philosophische Manuskripte ドイツ語
科学的社会主義が確立する以前の、いわゆる初期マルクスが、1844年に出版のためでなく、自己の思想をまとめるために書いた手稿。これが発見され公刊されたのは1932年。そこでは疎外の概念によって資本主義が批判されているが、疎外の概念には、あるべき人間の本質が前提されており、疎外とはこの本質の否定を意味するから、それによる批判は、道徳的な批判にならざるをえない。それは科学的な批判ではなく空想的社会主義の要素をとどめている。疎外論を越え物象化論に進むことで科学的社会主義が確立する。
[古賀英三郎]
『藤野渉訳『経済学哲学手稿』(大月書店・国民文庫)』▽『オイゼルマン著、服部文男・大谷孝雄訳「マルクスの『経済学・哲学手稿』」(1976・青木書店)』