…この猿楽・田楽はまた,長い中世の間に,五穀豊穣,不老長寿,天下泰平など人間生活の根底にある願望を象徴する翁舞の仮面をも取り込んだ。この翁面は始源は明確でないが,東南アジアの一地方に残る仮面と同巧の工作があり,はるか遠い時点での関連が想像される。能・狂言は中世末期に猿楽・田楽から脱皮して大成し,近世に栄えた楽舞で,その歌舞と演劇の日本的な巧緻なないまぜは仮面にも微妙なニュアンスを与え,世界にも類をみないほどの多種多様な仮面をつくりだした。…
…能楽に用いられる仮面(面(おもて))をいうが,その先行芸能である猿楽や田楽に用いられた仮面をも含むのが普通である。たとえば翁舞に用いられた翁(おきな)面,三番叟(さんばそう),父尉(ちちのじよう),延命冠者(えんめいかじや)は鎌倉時代にその形制を確立して,そのまま能面に継承された。追儺(ついな)または鬼追いに用いられた各種の鬼面は,猿楽や田楽のなかで変貌し,南北朝から室町時代にかけての能楽大成期に,能面らしい形に分化したと思われる。…
…世阿弥の著書によれば,室町時代初期には,特殊な神事能以外は《父尉》を省くのが常態となっていたことがわかるが,〈式二番〉とは呼ばずに,もとの名称を引き継いでいた。二番のうち《翁》は古くは《翁面(おきなめん)》とも称した。また《三番猿楽》はのちに〈三番サウ〉と略され,文字も〈三番叟〉または〈三番三〉と書かれるようになった。…
※「翁面」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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