父尉(読み)チチノジョウ

デジタル大辞泉 「父尉」の意味・読み・例文・類語

ちち‐の‐じょう【父尉】

古く、猿楽の「おきな」に登場した老人の役。また、その舞。室町中期に廃絶。現在、能の「翁」の特殊演出「父尉延命冠者」に名残を残す。
能面の一。目尻がつり上がった切りあごの老人面。1でシテの翁が使う。

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精選版 日本国語大辞典 「父尉」の意味・読み・例文・類語

ちち‐の‐じょう【父尉】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 古く、猿楽の翁に登場した役。また、その舞。本来は独立していたが、鎌倉中期には延命冠者(ツレ)とともに登場するようになり、ついで室町時代には父尉と冠者とが略されるようになった。現在の能では翁(おきな)の特殊演出の「十二月往来」「父尉延命冠者」として残る。→式三番
    1. [初出の実例]「猿楽〈略〉翁面 延覚房、三番猿楽 太輔公、冠者 美乃公、父允 善永房」(出典:春日臨時祭記)
  3. 能面の一つ。にシテの演者が用いる老翁の面。
    1. 父の尉<b>②</b>
      父の尉

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改訂新版 世界大百科事典 「父尉」の意味・わかりやすい解説

父尉 (ちちのじょう)

式三番(しきさんばん)》における役の名。またその役専用の面の名。《式三番》は古い猿楽の伝統を伝える演目で,翁(おきな),三番叟(さんばそう),父尉の三老翁による祝福の歌舞三番を指すが,このうち父尉だけは,室町時代から特殊な催し以外演じなくなった。面は翁とほぼ同型だが,目尻のつり上がった引きしまった顔つきで,この面を掛けた老翁が,延命冠者(えんめいかじや)という若い面の役と並び立ち,親子祝言を述べたのち,祝舞を演ずる。
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世界大百科事典(旧版)内の父尉の言及

【延命冠者】より

…《式三番》における役の名,またその役専用の面の名。《式三番》は古い猿楽の伝統を伝える演目で,翁(おきな)・三番叟(さんばそう)・父尉(ちちのじよう)の三老翁による祝福の歌舞三番をさすが,その父尉に従って登場する若者がこの延命冠者である。上記のうち父尉だけは室町時代から特殊な催し以外演じなくなったので,この役もめったに見られない。…

【式三番】より

…能役者と狂言役者が演ずるが,能でも狂言でもない別の種目で,構成・詩章・謡(うたい)・囃子・舞・面・装束など,すべての点で能・狂言とは異なる古風な様式をもつ。式三番という名称は,〈例式の三番の演目〉の意味で,《父尉(ちちのじよう)》《》《三番猿楽(さんばさるがく)》の3演目を指す。いずれも老体の神が祝言・祝舞(しゆうぶ)を行うもので,3者の間に直接の関係はないが,能や狂言と違ってこの中から演目を選ぶというのではなく,三番一組にして演ずるものである。…

【能面】より

…能楽に用いられる仮面(面(おもて))をいうが,その先行芸能である猿楽田楽に用いられた仮面をも含むのが普通である。たとえば翁舞に用いられた翁(おきな)面,三番叟(さんばそう),父尉(ちちのじよう),延命冠者(えんめいかじや)は鎌倉時代にその形制を確立して,そのまま能面に継承された。追儺(ついな)または鬼追いに用いられた各種の鬼面は,猿楽や田楽のなかで変貌し,南北朝から室町時代にかけての能楽大成期に,能面らしい形に分化したと思われる。…

※「父尉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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