狂言方(読み)キョウゲンカタ

デジタル大辞泉 「狂言方」の意味・読み・例文・類語

きょうげん‐かた〔キヤウゲン‐〕【狂言方】

演能の際に、狂言を演じる人。本狂言あい狂言三番叟さんばそうなどをつとめる。狂言師
歌舞伎狂言作者のこと。江戸後期には特に四、五枚目の下級作者をいい、立作者の下でせりふの書き抜き、幕の開閉などの仕事をした。

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精選版 日本国語大辞典 「狂言方」の意味・読み・例文・類語

きょうげん‐かたキャウゲン‥【狂言方】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 能楽で狂言の上演を受け持っている役者のこと。狂言師。狂言。
  3. 江戸時代、寛文・延宝(一六六一‐八一)頃の歌舞伎で、狂言種の物真似や歌舞を演ずる役者。〔松平大和守日記‐万治三年(1660)一一月二五日〕
  4. 一般に歌舞伎狂言の作者をいうが、特に江戸後期の歌舞伎における四、五枚目の下級作者をいう。この下級作者は立作者の下で正本清書、せりふの書抜、幕の開閉等演出事務や舞台監督の仕事をする。
    1. [初出の実例]「せり出しだの、翠簾(みす)の上下(あげおろし)、道具がはりだのといふ拍子木は、キッカケと申ます。〈略〉あれは狂言方の内から打ますが」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)下)
    2. 「戯作者や狂言作者(キャウゲンカタ)ならたいそうな新案(かきおろし)ができるのだぜ」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「狂言方」の意味・わかりやすい解説

狂言方 (きょうげんかた)

能楽において,《翁》の三番叟(さんばそう)と風流(ふりゆう),能のアイ間狂言),独立した劇としての狂言(間狂言と区別していうときは本狂言と称する)の演技を担当する演者のこと。シテ方ワキ方囃子方に対しての呼称。歴史的には,大和猿楽四座をはじめ各地の猿楽の座に所属するかたちで狂言を専門に演ずる役者ないし集団があり,室町末期に流派分化をみた。江戸期には大蔵流・鷺流・和泉流の3流が並び立ち,このうち鷺流は大正期に滅びたので,現在は大蔵・和泉の2流が活動している。能楽に携わる演者を総称して能楽師または能役者と称し,狂言方も広義には能楽師,能役者だが,それとは別に狂言方の演者だけをさす狂言師という呼称もある。なお《翁》においては,シテ方が下掛(しもがか)り三流(金春(こんぱる)・金剛喜多)の場合は,千歳(せんざい)の役と面箱(めんばこ)の役を兼ねて狂言方が演じ,上掛(かみがか)り二流(観世・宝生)の場合は,千歳はシテ方が,面箱は狂言方が演ずる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狂言方」の意味・わかりやすい解説

狂言方
きょうげんかた

能楽の上演において狂言(本(ほん)狂言、間(あい)狂言、三番叟(さんばそう)および風流(ふりゅう))を勤める役者。狂言師と同義に使われることもあるが、厳密には狂言を本業とする玄人(くろうと)が狂言師で、狂言方には素人(しろうと)でもなれる。江戸時代にはシテ方の流儀あるいは家に特定の狂言方が専属するのを原則としたが、現在は大蔵(おおくら)、和泉(いずみ)2流の役者が、シテ方五流(観世(かんぜ)、宝生(ほうしょう)、金春(こんぱる)、金剛(こんごう)、喜多(きた))の狂言方を勤めている。なお初期歌舞伎(かぶき)には、滑稽(こっけい)な演技を担当する者として、道化(どうけ)方と並び狂言方という役柄が存在したが、のちには歌舞伎の作者(狂言作者)のうち、下級の者を狂言方とよんだ。

[小林 責]

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百科事典マイペディア 「狂言方」の意味・わかりやすい解説

狂言方【きょうげんかた】

狂言を演じ,またアイとして能に参加する専門職。狂言師とも。また《(おきな)》の三番叟(さんばそう)と風流(ふりゅう)は狂言方の受持。シテ方に対し,ワキ方,囃子(はやし)方とともに三役と呼ばれる。また歌舞伎では狂言作者(脚本作者)のうち下級者をいう語。幕の開閉の柝(たく)を打ったり,科白の書き抜き,プロンプターなどの演出事務に当たる。
→関連項目

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狂言方」の意味・わかりやすい解説

狂言方
きょうげんかた

能楽用語。狂言および間狂言を受持つ役者。シテ方,ワキ方,囃子方に対する。シテ方を除いた3者を一括して三役という。江戸時代以前には,シテ方の特定の流儀に付属するか,大名に召しかかえられていたが,今日では,シテ方の専属ではなく,それぞれが独立している。現在は大蔵,和泉の2流があり,鷺流は大正期に滅んだ。狂言師と同義にもいう。

狂言方
きょうげんかた

歌舞伎用語。三枚目以下の下級の狂言作者。演出事務,舞台監督を職掌とする。

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世界大百科事典(旧版)内の狂言方の言及

【狂言】より


[江戸時代]
 江戸時代に入ると,狂言は能とともに武家の式楽となって幕藩体制に組み込まれる。能のシテ方支配が確立し,狂言方はワキ方・囃子方とともにその服属下に入った。しかしそれは同時に,狂言方が武士に準ずる待遇を受け,演目も定着し,役者は技芸を磨くことに専念できるという体制でもあった。…

【能】より


【役籍】
 能は,役に扮して舞台に立つ立方(たちかた)と,もっぱら音楽を受け持つ地謡方(じうたいかた),囃子方とで成り立つが,それぞれの中で技法がさらに分化し,室町時代末期に七つの専門が確立した。立方を勤めるシテ方,ワキ方,狂言方と,囃子方である笛方,小鼓方,大鼓方,太鼓方の7役籍がそれで,江戸時代以降,互いに他の専門を侵さない規律ができ,現在でもそれが守られている。なお,地謡はシテとの関連性が強いためにシテ方が勤める。…

※「狂言方」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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