日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
脂肪酸生合成阻害型除草剤
しぼうさんせいごうせいそがいがたじょそうざい
除草剤を阻害作用で分けたときの分類の一つ。細胞膜、エピクチクラワックス、クチクラ等の構成成分として重要な役割を果たしている脂肪酸の生合成を阻害することにより除草作用を発現する。その阻害部位により、アセチル補酵素A(CoA)カルボキシラーゼ阻害剤、炭素鎖伸長阻害剤と称する。
[田村廣人]
アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤
アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤には、アリロキシプロピオン酸を基本骨格とするアリロキシプロピオン酸系除草剤(フルアジホップブチル、キザロホップエチル、シハロホップブチルなど)とシクロヘキサジオンを基本骨格とするシクロヘキサジオン系除草剤(セトキシジム、クレトジムおよびテブラロキシジム)があり、ともに、炭素数16程度の飽和脂肪酸生合成の開始反応を触媒する酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼ(Acetyl-CoA carboxylase:ACCase)を阻害するが、アリロキシプロピオン酸系除草剤は、ACCaseの非拮抗(きっこう)的阻害、シクロヘキサジオン系除草剤は、ACCaseの拮抗阻害であり、両除草剤のACCaseへの結合部位は、異なることが示唆されている。両除草剤のACCase阻害作用は、イネ科植物のみであり、広葉植物は影響を受けないため、大豆やテンサイ等の広葉作物の選択的除草剤として使用される。アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤は、茎葉処理により一年生および多年生のイネ科雑草の分裂組織の壊死(えし)、萎凋(いちょう)および成長抑制などの症状を引き起こしながら、徐々に枯死させ、除草効果を発揮する。しかし、イネ科雑草のスズメノカタビラには除草効果を示さない。
[田村廣人]
炭素鎖伸長阻害剤
炭素鎖伸長阻害剤は、とくに炭素数20以上の超長鎖脂肪酸(Very long-chain fatty acids:VLCFAs)の生合成を触媒する鎖長延長酵素を阻害する。炭素鎖伸長阻害剤には、クロロアセトアミドを基本骨格とするクロロアセトアミド系除草剤(アラクロール、メトラクロール、プレチラクロールなど)、チオカーバメートを基本骨格とするチオカーバメート系除草剤(チオベンカルブ、ジメピペレートなど)および、新規な骨格を有するフェントラザミド、カフェンストロールおよびインダノファンがある。クロロアセトアミド系除草剤は、タンパク質合成の阻害剤と考えられていたが、炭素数20以上のVLCFAsの生合成を阻害することにより、おもに一年生イネ科雑草の幼芽・幼根の細胞分裂および伸長を阻害し、土壌処理により除草効果を発揮する。チオカーバメート系除草剤は、土壌処理剤としておもに一年生イネ科雑草に対して、より除草効果を発揮する。なかでも、チオベンカルブは、発芽初期の幼芽部の成長を阻害し、とくにイネ科やカヤツリグサ雑草に有効であるが、イネとタイヌビエの間に選択性を示すため、日本では1969年(昭和44)から水稲用除草剤として用いられている。フェントラザミドとカフェンストロールは、炭素数20から24、またインダノファンは、炭素数22以上のVLCFAsの生合成を阻害することにより除草効果を発揮する。
[田村廣人]