内科学 第10版 「脳日本住血吸虫症」の解説
脳日本住血吸虫症(寄生虫感染症)
病原体
日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)疾患の主座は門脈系および肝臓であるが,ときに虫卵の脳内侵入により中枢神経症状を呈する.【⇨4-17-1)】
臨床症状・検査成績
1)急性脳日本住血吸虫症:
虫卵に対する異物反応とアレルギー性血管炎所見を示し,発熱,頭痛,嘔吐,痙攣などがみられる脳炎型,虫卵により脳塞栓を示し,部分痙攣発作,上肢単麻痺や片麻痺,失語,視野障害など高次脳機能障害を示す脳塞栓型,両者の混合型がみられる.検査所見では便から虫卵を認める.末梢血では好酸球増加がある.髄液は軽度の圧上昇,蛋白,細胞数の増加を示し,糖値は正常のことが多い.脳波所見ではθ波やδ波の左右差所見で,発作波はほとんど認めない.
2)慢性脳日本住血吸虫症:
この期の病理組織像は浸潤後の壊死巣や虫卵を核とした肉芽腫,それらの混在など多彩である.症状は急性期の症状が持続する.ほとんどの症例に発作を示す.検査所見では血清免疫学的検査で全例陽性に認められる.脳波所見は汎性αパターンで,左右差のある徐波を混在させ,発作波はまれである.CT/MRIにて日本住血吸虫卵塞栓による脳表層の単発ないし多発する塞栓巣や肉芽腫が描出されることがある.
診断
糞便検査による虫卵の検出,直腸・肝生検による虫卵の検出.補助診断として,血清学的検査:虫卵周囲沈降反応,ゲル内沈降反応,ELISA法も有用である.
鑑別診断
急性では,ほかの寄生虫疾患,アレルギー性脳脊髄炎,てんかんなど,慢性ではてんかん,脳腫瘍,真菌症,梅毒性肉芽腫,陳旧性脳梗塞など.
治療法
プラジカンテル,50~60 mg/kgを分3にて1~2日経口投与することで,80%以上の治癒率が得られている.[三浦義治・岸田修二]
■文献
林 正高:吸虫症.日本臨牀 領域別症候群シリーズNo26 神経症候群―その他の神経疾患を含めて―,pp676-680,日本臨牀社,大阪,1999.
Shakir RA, Pfister HW: Parasitic infections. In: Neurological Disorders: Course and Treatment (Brabdt T, Caplan LR, et al eds), pp433-452, Academic Press, San Diego, 1996.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報