自己の身体の一部を傷つける行為をいう。K.メニンガーは,自傷を〈焦点的自殺focal suicide〉と呼び,自殺と関連づけて説明している。また,自傷の中に罪悪感に対する贖罪(しよくざい)としての象徴的な意味を見いだそうとする学者もいる。しかし一般には,自傷とはそれ自体が完結した行為であるという立場をとる学者が多い。つまり,自殺行動とは必ずしも関連づけて考えないのである。臨床場面では,自傷個所は顔面,胸部,陰部などがよく選ばれるが,致命的な行動に移行する場合はまれである。精神医学的によく自傷が生ずる疾患をあげると,統合失調症,てんかんのもうろう状態,精神発達遅滞,コカインなどの薬物依存,進行麻痺,認知症などである。自傷に使用されるものは,針,釘,ガラスの破片などさまざまである。自傷行為の背景には幻覚・妄想が認められることもあるが,心理学的・精神病理学的に説明の困難な場合が多い。
→自殺
執筆者:大原 健士郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報