日本大百科全書(ニッポニカ) 「自由銀」の意味・わかりやすい解説
自由銀
じゆうぎん
Free Silver
銀貨を自由に鋳造すること。1870年代から19世紀末にかけてのアメリカでは、西部の銀鉱山業関係者と農民を中心に、政府による銀の大量買上げと銀貨の無制限鋳造、すなわち自由銀を要求する声が強くなった。当時のアメリカ農民は、慢性的な農村不況に苦しんでおり、また彼らの多くは債務を背負っていたので、通貨の増発によるインフレ政策を主張したのであった。金銀複本位制を唱える彼らは、金本位制に反対し、1ドル銀貨鋳造を中止した貨幣鋳造法(1873)を「1873年の犯罪」とよんで激しく非難した。自由銀論者の勢力は、1893年にシャーマン銀買上げ法(1890制定)が廃止されたのを契機に超党派的に拡大強化され、96年の大統領選挙において民主党銀派の指導者ウィリアム・J・ブライアンが同党の候補者として出馬するに及んで最高潮に達した。ブライアンは、人民党の指名も受けて善戦したが、共和党のマッキンリーに敗れ、以後、自由銀派の勢力は急速に衰えた。
[平野 孝]