…他面,真言はそれ自体悟りの智慧にほかならず,無明(むみよう)(アビドヤーavidyā)を破る本性があることからして,真言を自らの宗教的優越性の根拠として,真言密教と自称する。なお,密教には真言と同様の呪として明呪(ビドヤー)と陀羅尼(ダーラニーdhāraṇī)とがあるが,後2者は文法上本来的には女性形単数呼格の集合体という形をとり,世界質料たる大母神(仏教では仏母すなわち般若波羅蜜)とその顕現たる村落の母神たち,というインド的精神性の基層と接続する。【津田 真一】 密教は仏の言語をもって仏の内証(ないしよう)をあらわすといい,サンスクリットの字句をインドの発音のまま誦する。…
…自らの行動を慎み(戒),自己の心をコントロールすること(定)によって,正しい見識(慧)が生じ,安らぎ(解脱=涅槃(ねはん))にいたると説く。大乗仏教は,菩薩(ぼさつ)の実践すべき修行徳目として〈六波羅蜜(ろくはらみつ)〉を説くが,そのうち〈般若波羅蜜〉(般若波羅蜜多とも書く。真実の智慧の完成)は他の五つすべての根底をなすものとして重視された。…
…神秘的合一)の論理に基づいて,三密加持,すなわち,自己の身体的動作によって諸尊の動作を模し(羯摩(かつま)印),口にそれらの真言を誦し(法印),意にそれらを象徴する形象(三昧耶形(さんまやぎよう))を観想し(三昧耶印),かくて自己を実在界(仏の世界)の一個の象徴(大印,マハームドラーmahāmudrā)と化することによって即身成仏をはかるもので,純然たる密教を実現している。 タントラ仏教はかの世界の女性原理を般若波羅蜜(仏母,すなわち悟りを生む智恵)として認識し,それを生身の女性(大印)と同置し,それと性的に瑜伽(合一)することによって中性的真実在の現成(悟り)を期するもので,通常は左道密教として嫌悪されるが,その本質はインド的精神性の原点への復帰現象とみなしうる面をもつ。なお,密教に対して,大乗よりもすぐれたという意味の金剛乗(バジュラヤーナVajrayāna)という呼称が用いられることがあるが,これは日本密教では純密を指し,チベット密教ではタントラ仏教がそのように自称するものである。…
※「般若波羅蜜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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