初期の大乗仏教経典の一つ。ただし単一の経典ではなく,諸種の般若経典を総称したもの。何ものにもとらわれない〈空観(くうがん)〉の立場に立ち,またその境地に至るための菩薩の〈六波羅蜜(ろくはらみつ)〉の実践,とくに〈般若波羅蜜〉の体得が強調される。そこから従来の部派仏教に対しては厳しい批判的な態度をとる。般若経典のうち,最も古く基本的なものは《八千頌般若経》で,紀元前後ころから1世紀の半ばころまでに成立したと考えられている。すでに2世紀に支婁迦讖(しるかせん)により《道行(どうぎよう)般若経》として漢訳されたほか,クマーラジーバ(鳩摩羅什(くまらじゆう))訳《小品(しようぼん)般若経》など,計5回にわたり漢訳されている。サンスクリット本およびチベット語訳も現存する。《八千頌》を増広したものとして《十万頌般若経》《二万五千頌般若経》などがあり,《二万五千頌》のクマーラジーバによる漢訳《大品(だいぼん)般若経》が中国,日本では最も重視された。逆に短いものとしては,《金剛般若経》《般若心経》などがよく知られている。密教化した《理趣経》なども般若経典の一部である。これらを集大成したものが玄奘訳《大般若経》600巻である。注釈書として,インド,チベットでは弥勒の著とされる《現観荘厳論(げんかんしようごんろん)》が重んじられたが,中国,日本では竜樹の著とされる《大智度論》100巻(クマーラジーバ訳)が最もよく読まれた。般若経典は読誦により呪術的効果があるとされるが,《大般若経》の転読は,各巻の数行だけ読んで全体を読んだのと同じ効果を期待する儀式で,奈良時代以来広く行われている。
執筆者:末木 文美士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大乗仏教の最初期の経典群の総称。これを名のる経典は数多く漢訳されて、「大正新脩(たいしょうしんしゅう)大蔵経」に収められているものだけでも42経もあり、サンスクリット本やチベット訳もかなりそろっている。大乗仏教の第一声を告げる経として、もっとも重要な経であるが、以後次々とつくられ、しだいに増広されて、最大のものは玄奘(げんじょう)の訳した『大般若波羅蜜多(はらみった)経』600巻に及ぶ。これはあらゆる経典中最大のものである。いっさいの実体と実体的思想との否定をうたう「空(くう)」の思想をよりどころとする般若の知慧(ちえ)を説き、六波羅蜜の実践を推進する。なお、密教のよりどころとなった『理趣(りしゅ)(般若)経』はかなり後代のものであり、また『金剛(般若)経』は禅関係で流布し、『般若心経(しんぎょう)』は浄土教と日蓮(にちれん)宗を除く仏教全般に広く愛読され、書写も盛んであり、現在もっともよく知られる。
[三枝充悳]
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