改訂新版 世界大百科事典 「花ちりぬ」の意味・わかりやすい解説
花ちりぬ (はなちりぬ)
1938年製作の東宝映画。《愛傷》(1926)でデビューしてから1947年に引退するまで,時代劇,メロドラマ,喜劇など83本の作品を手がけた石田民三(1901-72)監督の代表作。劇作家森本薫の原作・脚本で,明治維新直前の幕府と薩長の戦いにさらされて不安と焦燥にかられる京都祇園の料亭を通して幕末の動乱をとらえ,歴史の転換期における庶民の悲劇に目を向け,男の姿は1人も登場させずに,京都弁を巧みに使って女の感情と時代の雰囲気を描いた異色作である。
戦後の日本映画史ではほとんど無視されている石田民三とともに〈忘れられた映画〉であるが,イギリスの日本映画研究家ノエル・バーチのように,この映画の371カットを詳細に分析し,日本映画には数少ない〈集団映画〉の傑作であり,1930年から45年に至る日本映画の黄金時代における傑作の1本であると評する外国の評論家もいる。石田はこの作品につづいて,再び脚本の森本薫とコンビで,明治初期の大阪の船場を舞台とした《むかしの歌》(1939)をつくった。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報