一般にフランスの作家モンテルランの1936年の同名の作品のほか、『女性への憐憫(れんびん)』(1936)、『善の悪魔』(1937)、『癩(らい)を病む女たち』(1939)からなる四部作を総称する。この四部作は青年作家ピエール・コスタルと彼を取り巻く女たちとの関係を、往復書簡、日記、客観的叙述、作者の全体についての注釈という四つの形式を併用して描き出したもので、そこにちりばめられている女性蔑視(べっし)の思想ゆえに、刊行当時大きなスキャンダルを巻き起こした。けれども作者が一見華々しい舞台のうえで追求したのは、ニーチェ的超人思想をもつ自由人すら逃れえぬ憐憫という陥穽(かんせい)であって、そうした自由の限界を認識した主人公は最後に孤独のなかに復帰する。したがってこの作品は、生活者たろうとした作家が作家であることの意義を再発見するに至る、芸術家小説だとみることもできる。
[渡辺一民]
『新庄嘉章訳『若き娘たち』(新潮文庫)』▽『新庄嘉章訳『癩を病む女達』(1948・新潮社)』▽『堀口大学訳『女性への憐憫』(新潮文庫)』▽『堀口大学訳『善の悪魔』(1951・新潮社)』
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