蓼喰ふ虫(読み)タデクウムシ

デジタル大辞泉 「蓼喰ふ虫」の意味・読み・例文・類語

たでくうむし〔たでくふむし〕【蓼喰ふ虫】

谷崎潤一郎小説。昭和3~4年(1928~1929)発表離婚機会を待っている名目だけの夫婦、要と美佐子の心理的経緯を描く。古典的、純日本的なものへ回帰する作者転機を示した作品

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精選版 日本国語大辞典 「蓼喰ふ虫」の意味・読み・例文・類語

たでくうむしたでくふむし【蓼喰ふ虫】

  1. 小説。谷崎潤一郎作。昭和三~四年(一九二八‐二九)発表。東京から関西に移住した資産家の夫婦が、それぞれ愛人をもちかたちだけの夫婦生活を送っているが、離婚しようとしても容易に実行できない。男はそんな生活のなかでしだいに伝統的な文化と古い女の魅力にひかれてゆく。作者の伝統的古典文化への傾倒を示す作品。

たで【蓼】 食(く)う虫(むし)

  1. 初夏、蓼の辛い新葉を食う虫。たでむし。もの好きなもののたとえとする。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「蓼くふ虫よりはるかましじゃ」(出典:波形本狂言・縄綯(室町末‐近世初))

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蓼喰ふ虫」の意味・わかりやすい解説

蓼喰ふ虫
たでくうむし

谷崎潤一郎の長編小説。1928年(昭和3)12月から翌年6月まで『東京日日新聞』『大阪毎日新聞』に連載。29年改造社刊。東京生まれの斯波要(しばかなめ)・美佐子夫妻は関西に移り住んで結婚後10余年、小学校4年の子供があるが、いまは名目だけの夫婦である。美佐子には2年ほど前から阿曽(あそ)という恋人ができ、毎日のように会いに行く。夫の要はそのことを知りつつ、混血のルイズという娼婦(しょうふ)のもとに通っている。2人とも、子供を傷つけないよう離婚する機会を待っているのだが、そんなある日、妻の父に誘われて文楽見物に出かけた要は、文楽の人形の小春のうちに「永遠女性」のおもかげをみいだし、また、義父の若い妾(めかけ)お久の関西的な伝統美の世界に惹(ひ)かれてゆく。モダニズムから古典回帰へと移行する時期の重要な作品。自伝的要素も濃く、この作が書かれて2年後、潤一郎は妻千代を友人の佐藤春夫に譲った。

[大久保典夫]

『『蓼喰う虫』(新潮文庫)』

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