蛙の王(読み)かえるのおう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「蛙の王」の意味・わかりやすい解説

蛙の王
かえるのおう

昔話。蛙の王子ともいう。動物の姿になっている人を婿にすることを主題にした婚姻譚(たん)の一つ。グリム兄弟の昔話集の巻頭にある昔話「蛙の王」で知られる。王の末娘が池にまりを落とす。カエルに、望みどおりにすると約束して、まりをとってもらう。カエルが御殿へきて、姫といっしょに食事をとり、寝る。姫がカエルを嫌って壁にたたきつけると、王子の姿になる。王子は魔女の力でカエルにされていたという。姫は王子と結婚し、王子の領地へ行く。グリムの昔話集の初版の第2巻(1815)には類話が「蛙の王子」という題名で収められている。類話は、ゲルマン系諸族を中心にヨーロッパに多い。早くから読み物として翻訳され、世界中に広まっており、トルコの類話数例はその影響によるものとされている。日本にも「蛙の王」とよく似た昔話が古老によって語られていた事例があるが、新しいものであろう。東アジアには、これとは別に、カエルを婿にする昔話があり、日本でも西日本に類話が分布している。子供のない夫婦が神に祈願してカエルを授かる。年ごろになると、食物を持って長者の家に行き、娘の口に食物をつけておく。カエルは食物がなくなったといって騒ぎ、娘を犯人に仕立てる。長者はそんな娘は家に置けないと追い出す。カエルは娘を妻にする。妻がカエルの体をたたくと、カエルはりっぱな若者になり、幸せに暮らす。この系統の類話は朝鮮中国にもある。日本の類話の食物を盗まれたとだます趣向は、「一寸法師」の昔話とも一致しており、「田螺(たにし)長者」などこれら一連の小さ子の昔話が、共通基盤のうえに成立していることがうかがわれる。

[小島瓔

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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