蝋を素材にしてつくった人形。イタリアでは古くから宗教的な目的で蝋人形がつくられてきたが、ヨーロッパでは14世紀のころまで葬儀用の人形として使われ、親しい死者の記念にこの人形を教会の壁に並べる風習があった。それがしだいに子供相手の玩具(がんぐ)にもなった。17世紀ごろから製作の中心地はオーストリアへ移り、またフランス、イギリスなどでも盛んにつくられるようになった。歴史上の有名人物のおもかげをそのまま人形化して伝え、ありのままの姿を知りたいという欲求に応じて発達した。「生きている」ようにつくられているのが特徴で、精巧なものは本物の毛髪を用い、眉毛(まゆげ)なども1本1本植え込んだ。18世紀にはフランスでファッション・デザイナー用のヘア・モデル人形も登場したが、19世紀にはイギリスで目の動く蝋人形がつくられた。スイスのマリー・タッソーMarie Tussaud(1761―1850)は、フランス革命の際ギロチンで処刑された王族たちの頭部を蝋細工につくった蝋人形製作者で知られ、ロンドンに自作の蝋人形館を開設。世界の蝋人形館の草分けとなった。蝋人形は写実的な彫塑に着色したうえ蝋をかける独特の製作技法に特色がある。
[斎藤良輔]
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