毛髪(読み)モウハツ

デジタル大辞泉 「毛髪」の意味・読み・例文・類語

もう‐はつ【毛髪】

人の体毛の総称。特に、髪の毛
[類語]頭髪髪の毛地髪地毛自毛黒髪

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精選版 日本国語大辞典 「毛髪」の意味・読み・例文・類語

もう‐はつ【毛髪】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 人体のほとんど全面をおおう毛の総称。ふつう髪の毛をさす。
    1. [初出の実例]「草木是毛髪、春雨沐而緑深」(出典:本朝文粋(1060頃)八・春生逐地形詩序〈慶滋保胤〉)
    2. [その他の文献]〔史記‐扁鵲倉公伝〕
  3. きわめてわずかなことのたとえにいう。
    1. [初出の実例]「相応之儀、毛髪無疎意、無二可入魂申候」(出典:伊達家文書‐(年未詳)(安土桃山)二月一三日・北条氏直書状)
    2. [その他の文献]〔韓愈‐柳子厚墓誌銘〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「毛髪」の意味・わかりやすい解説

毛髪
もうはつ

人の毛の総称。頭皮にある毛を頭髪、そのほかの体部にある毛を、鬚髯(しゅぜん)(あごひげほおひげ)、眉毛(びもう)(まゆげ)、睫毛(しょうもう)(まつげ)、鼻毛、耳毛、腋毛(えきもう)(わきげ)、陰毛、体毛などとよび区別する。また、性腺(せいせん)の影響を受ける毛は性毛といい、腋毛、陰毛、鬚髯がこれにあたる。ほとんど全身に分布するが、口唇紅部、手掌(しゅしょう)(手のひら)、足底、指趾(しし)腹(手足の指の腹)、指趾末節背、亀頭(きとう)、包皮内板、陰核にはない。その数は全身で約500万本、頭髪で約10万本である。毛は中心から毛髄質、毛皮質、毛小皮の3層からなり、毛髄の有無、メラニン色素の有無により毳毛(ぜいもう)(うぶ毛)、軟毛、硬毛に、硬毛はさらに長毛と短毛に分けられる。毳毛は胎生期の毛で、生後まもなくみられなくなる。軟毛はメラニン色素はあるが毛髄を欠き、皮膚の広い部分に分布する。硬毛はメラニン色素、毛髄ともに有し、頭部、わきの下、外陰部など限られた部分に分布し、長毛は頭髪など長くなる毛を、短毛は眉毛、睫毛などの短い状態で伸びが止まる毛をさす。性状により直毛、波状毛、縮毛(しゅくもう)に、色調から黒毛、褐色毛(ブルネット)、金髪(ブロンド)、赤毛、白毛などの区別がある。頭髪の成長速度は1日に0.3~0.4ミリメートルとされているが、年齢、性、部位、季節、昼夜による差がある。

[齋藤公子]

毛髪の寿命

人の毛髪はメリノー種ヒツジのように一生同じ毛が成長し続けるわけではなく、一定の期間を過ぎると自然に抜けていき(頭髪で1日に約70~80本の自然脱毛がある)、しばらくすると新しい毛が生えてくる。これを毛の寿命あるいは毛周期(もうしゅうき)といい、成長期、退行期、休止期からなる。各期は身体の部位や年齢により異なるが、成長期の長いものほど毛が長く成長する。頭髪では85%が成長期にあり、5~7年間続くのが普通だが、なかには25年に及ぶものもあって2メートルを超す人がいる。退行期の毛は2%で2~3週間で休止期に入り脱落する。人ではおのおのの毛組織が独立の毛周期を営んでいるので(モザイクパターン)、ネズミウサギなど一斉的周期をもっている動物のような毛がわりの現象がない。

[齋藤公子]

毛髪の組成

毛髪は、硬ケラチンとよばれる硫黄(いおう)を含む線維性タンパクを主成分とするが、これはポリペプチド鎖が長軸の方向に平行に並び側鎖により互いに結合したものである。長軸の方向には非常に強靭(きょうじん)で、1本の毛髪で約100グラムのものをつるすことができる。側鎖は切れやすく、毛髪が縦に裂けやすいのはこのためで、手入れが悪いと枝毛を生じやすい。また水分をよく吸収し(乾燥重量の35%)、長軸の方向に1~4%、横軸の方向に14%伸びる。水分を含んだ毛は弾力性も増し、乾燥毛の1.5~1.75倍の長さに伸び、放すと乾燥毛より早く元に戻る。毛髪湿度計は毛髪が湿気で伸びる性質を利用したものである。

[齋藤公子]

毛髪検査

毛髪検査の法医学的価値は高く、たとえ1本の毛髪からでも有意義な情報が得られるので、犯罪捜査、個人識別、その他に広く活用されている。まず毛小皮や髄質の特徴などから種属鑑別(人獣毛、植物繊維など)が行われる。毛小皮の検査にはスンプSump(Suzuki's universal microfilm printings)法が有効である。人毛ならば形状、先端や断面の性状、付着物などから発生部位を、また毛根の性状から脱落毛か抜去毛かを判別し、抜去毛ならば毛嚢(もうのう)の性染色質やY染色体の検索によって性別を判定する。さらに、毛髪の損傷、パーマや染毛剤処理の有無、病的異常毛などの判定も重要である。髄質の有無などからは大まかな年齢層の推定も可能である。そして個人識別上重要な血液型(ABO式)は、現在では、たった1本の毛髪からでも判定でき、また、毛髪は腐敗しにくい組織であるため、腐乱死体などの血液型判定にも有効である。

[古川理孝]

人種と毛髪

モンゴロイドの毛髪は太く、直径100マイクロメートルを超すが、コーカソイドの毛髪はそれよりも細い。ネグロイドの毛も細い。太い毛は硬く、頭髪全体はごわごわしてみえるが、細い毛はふさふさしているようにみえる。しかし、細い毛は抜けやすく、そのため、コーカソイドの男性ははげやすい。一方、モンゴロイドは比較的はげにくく、とくにアメリカ・インディアンの男性には禿頭(とくとう)はみられない。女性に比べ、男性の頭髪は抜けやすい。一般にモンゴロイドの女性は、刈らずにいれば、身長以上に頭髪を伸ばすことができる。

 頭髪には湾曲するものがある。ほとんど曲がらないものを直毛、平面的に湾曲するものを波状毛、立体的に湾曲するものを縮毛という。湾曲する毛髪の大部分は他の毛と複雑に絡み合うが、なかには、1本1本が巻いているものがあり、螺毛(らもう)という。螺毛はピグミーに多発する。一般にネグロイドは縮毛、コーカソイドは波状毛、モンゴロイドは直毛である傾向が強いが、もちろん例外もある。直毛の横断面は円形であるが、湾曲した毛は楕円(だえん)形である。

 毛髪の色には二つの系列がある。一つはメラニン色素の多少によるもので、これが多いと黒色を呈するが、少ないと順次濃褐色から淡褐色(金髪)になる。メラニン色素の不足例はコーカソイドに顕著であり、それは皮膚や虹彩(こうさい)の色とある程度相関する。ネグロイドやモンゴロイドの頭髪は濃い。オーストラロイドの子供は、しばしば金髪であるが、成長するにしたがって黒化する。他の系列は赤毛であり、これはフェオメラニンまたはトリコジデリンという色素を含むためである。コーカソイドの一部にしばしばみられる。

 毛渦とはつむじのことである。渦巻方向に人種差があり、モンゴロイドでは右巻きが左巻きよりわずかに多いにすぎないが、コーカソイドでは右巻きは左巻きより数倍多い。

[香原志勢]

毛髪の人類学

毛髪の形状が人々を判断する指標になるなど毛髪の長短、髪形は現代の日常生活でも審美的関心を集めている。毛髪への関心の範囲は日常の手入れなどの世俗的慣習から儀礼などにみられる行動にまで及んでいる。

 儀礼や呪術(じゅじゅつ)、信仰のなかで毛髪が果たす象徴的役割は他の身体切除物や分泌物、排泄(はいせつ)物と比べとくに顕著で、使用頻度も高いことが民族誌的に知られている。これは切除が容易であるからと、切っても再生するという特徴が神秘的に感じられるからである。

 毛髪は象徴的に聖性やタブー、性などの問題と深くかかわっている。E・リーチの議論によると、一度切除された毛髪はけがれたものとして他の切除物や排泄物、分泌物と同等視されることも多いが、文化的現象によっては神聖なる物として聖物視される場合がある。たとえばインド、スリランカの仏教寺院に残る仏陀(ぶっだ)の髪と歯、古代アテネ市の城門に護符として飾られたというゴーゴンの蛇髪の頭の例がそれである。またアッサム地方のナガの人々の間では槍(やり)に飾る毛髪は姉妹のものでなければならず、槍につけた毛髪が象徴するのは、共同体の成員の殺害と近親相姦(そうかん)に対するタブーである。

 リーチをまつまでもなく通過儀礼を論じたものに毛髪はすでに扱われており、髪形の変化が社会的地位や状況の変化および移行を表す儀礼に利用されることの多さが示されている。厳密か否かは別に、男女や成人と未成人との区分に髪形を変えるのも一般的な社会傾向といえよう。リーチ以前にもフレーザーが毛髪を呪術との関連で論じている。つまり遺髪などの現象を部分(髪の毛)が全体(髪の所有者)を表すという感染呪術の論理で証明しようとした。しかしこの説明では毛髪に関する文化現象を論じるのに、同義反復的になる欠点が生じる。精神分析学でも生殖器と肛門(こうもん)をタブー視し生殖器と毛髪との象徴的代替関係を前提として、調髪をリビドーの抑制、一種の去勢ととらえることがある。このような精神分析家の一人にバーグがおり、毛髪という象徴物を利用して個人心理を分析するのみならず、抑圧の源泉であり超越的自我とされる社会を調髪=去勢説によって解明しようと試みた。心理学の有効性を認めるリーチもバーグのこの「社会」解釈の試みには強く論駁(ろんばく)し、性器=毛髪という象徴的代替と長髪=性の非拘束の一般的傾向を認める一方、この傾向と異なった民族誌の事例をあげ、性器と毛髪の代替関係が暗黙裏にせよ社会的に認められていることを述べた。

 毛髪に関する現象には、毛髪に対する感情のレベル、社会と文化に規定される個人の体験のレベル、社会と文化のレベルがあり、リーチの毛髪論は社会と文化のレベルを重視することに特徴があり、その特徴は毛髪が象徴的に社会的表現形態をとり伝達機能を有している点と、毛髪の象徴的重要性は儀礼的、文化的に支持されることで成立しているという2点に集約できる。しかしそれ以外のレベルの問題は未解決で、今後の議論をまたねばならない。

[熊野 建]

民俗

昔は男女とも赤子の頭髪を剃(そ)り落とした。出産に伴う出血によって、穢(けが)れているとみなされたからであろう。家屋を新築した場合の棟(むね)上げのとき、女性の髪の毛や化粧道具を供えることがある。名のある大工が柱を短く切り損ない、娘か妻の助言によって桝組(ますぐみ)の手法を発見したが、口外されるのを恐れて斬(き)り殺した。その霊を祀(まつ)るのだという由来話がある。新造船に守護霊として祀り込める船霊様(ふなだまさま)にも、女性の髪の毛を入れる例が多い。祭りに先だつ物忌みの一つとして、髪をくしけずらず油をつけぬなどのことがあり、葬式の際も女性は髪に油をつけず忌中髷(きちゅうまげ)に結った。夫に先だたれた妻が、納棺のときに黒髪の一部を入れることもある。二夫(にふ)にまみえず、ともにあの世へ行くという志を示す行為であろう。痛切な祈願のとき、黒髪を切って神社に奉納することもある。拝殿の格子などにくくり付けてくる。剃髪(ていはつ)して尼になるという気持ちであろう。呪術(じゅじゅつ)に使われることも多い。髪や爪(つめ)など、もと体の一部であったものは、体から離れたのちも体との関係を持続するものと考えられた。不用意に捨てたものを他人が入手して呪咀(じゅそ)すると、被害が本人に及ぶという。鳥が髪の毛を運んで巣の材料にすることがある。それをされた人は頭痛になるという俗信もある。軒先で髪をとかすものでないという禁忌も関連があろう。33歳の女性の体毛を身につけていると、徴兵を逃れるという俗信もあった。

[井之口章次]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「毛髪」の意味・わかりやすい解説

毛髪
もうはつ
hair

ヒトの髪の毛。その色と形態が多様であるため,人種分類上重要な要素となっている。毛髪の色は人種,個人によってかなり異なる。日本人などの黒い毛ではメラニン色素の量が多く,顆粒状に配列する。白人にみられる金髪や灰白色がかった金髪ではメラニン色素が少く,しかもそれが溶解した状態でみられる。 P.トピナールは毛髪の色を,(1) 純黒色,(2) 暗褐色,(3) 淡褐色,(4) ブロンド (金髪) ,(5) 赤色の5段階に大別した。メラニン色素の量は (1) から (4) へと減少していく。赤色は特殊のメラニン色素である。大部分の人種は暗色の毛をもつが,北ヨーロッパ出身の白人はブロンドまたは赤い色調の毛髪をもつ。同じヨーロッパでも南下していくに従って淡褐色,暗褐色が増し,地中海沿岸では暗色になる。毛の色は気候との関係はなく,また淘汰価値もないが,体表のメラニン色素沈着とは相互に関連するので,明色の毛は明色の皮膚や眼と関係が深い。白人やオーストラリア先住民の間では,幼時明色の毛をしているものが成人になると暗色になることが多い。毛髪の形状は,直線状のものから細かくちぢれているものまであるが,R.マルティンはこれを三大別し,さらに 11に小区分した。大別すれば直毛,波状毛,螺毛である。直毛は日本人や中国人などのモンゴロイドや,アメリカインディアンに多くみられ,波状毛は白人に多く,黒人は螺毛を呈するのが普通である。黒人では1本1本がちぢれているため,特に「コショウの実」または螺髪という。人類の毛髪にこのような縮毛がみられる理由は,淘汰の面からいっても不明である。頭髪の長さにも人種差があり,直毛,波状毛,螺毛の順に短くなる。

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普及版 字通 「毛髪」の読み・字形・画数・意味

【毛髪】もう(まう)はつ

髪の毛。極めて軽微なもの。唐・韓〔柳子厚(宗元)墓誌銘〕一旦小利の、かに毛髮の比の如きに臨めば、反眼して相ひらざる(ごと)く、陷穽につとも、一たびも手を引きて救はず。反つて之れを擠(おと)し、石を下す、皆是れなり。

字通「毛」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「毛髪」の意味・わかりやすい解説

毛髪【もうはつ】

単に髪,とも。色,形,分布,密度,毛流に変異がみられ,人種分類の基準にされる。特に色と形は重要な人種特徴。色は主としてメラニン量の多少と気泡状に取り込まれた空気の量で決定され,普通は黒色であるが,白人ではさまざまな色調を示し,毛色計で30種に分類される。金髪は北欧に多く,褐色毛は明色毛(金髪など)に対し優性に遺伝する。毛髪の形は直毛,波状毛,巻毛に3大別される。直毛はモンゴロイドやアメリカ・インディアン,波状毛は一般にコーカソイド,巻毛は黒色人種にみられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「毛髪」の意味・わかりやすい解説

毛髪 (もうはつ)

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世界大百科事典(旧版)内の毛髪の言及

【髪】より

…人体頭部の皮膚に植立する毛。頭毛,頭髪,髪の毛などとも称される。そもそも毛とは皮膚の表層をなす細胞群が硬いタンパク質性の物質塊(角質)に変化して生じたものであるが,その際に皮膚表層が1本1本の毛をとりかこむようにして体内へ深く(髪の場合は4~5mm)陥入し,毛包を形成する。生体から髪をむりに引き抜くと髪の根部にぶよぶよの組織が付着していることが多いが,この組織が毛包にほかならない。髪は頭部皮膚において2~9本ずつ群生している。…

※「毛髪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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