村落の開発をし,みずからそこへ住みついた最初の家。転じて,物事を創始することやその人をいう。草切り,鍬開き,芝起し,芝切りなどともいう。近世に開発された新田村などでは,歴史的事実として,最初に荒野を切り開いて耕地と集落を設定した者の子孫の家を草分けとか草切りと呼び,実際にその村の名主,組頭等の村役人を世襲的に独占していたことも多い。しかし,各地における草分けの家は,村落開発にあたった家として歴史的に確定できるものは少なく,多くが伝承としての草分けである。そのことは,草分けの家が村落に1軒ということはあまりなく,どこでもほぼ同じ数の家が草分けとして数えられており,しかもその来歴の説明がひじょうに類型的であることによって知られる。全国的にもっとも一般的に見られるのは,〈草分け七軒〉〈七軒百姓〉あるいは〈七かまど〉というように,草分けを7軒とすることである。単に7軒の家によって開発されたというだけでなく,その7軒の家が現実に存在することが多く,しかもそれらの家々が共有地の利用や神社の祭祀において特別な地位にあることもしばしばである。しかし,どこでも7軒なり7人の者が協力して開発したとは考えられない。村落の開発は7軒なり7人でなされねばならないという観念あるいは信仰の所産としての伝承というべきものである。そして,その7軒の来歴について,大部分が落人伝説を伴っていることも,それが単なる伝承であることを示している。草分けの家は先祖が武士であり,落人としてこの地に入って開発したという話は,自分たちを貴種に結びつけようとするものにすぎない。しかし,そのような単なる伝承が現実に力をもち,草分けの家を権威付け,村落における秩序の支えとなることも少なくない。草分けが落人伝説と結びついていることは,草分けはどこにでも存在するのではなく,中世から近世にかけて開発された可能性の強い山間地の農村に伝承されていることを意味する。したがって,近畿地方のような古く開発された地方では草分けはあまり存在せず,関東・東北・九州などに多い。
執筆者:福田 アジオ
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草創・草切り・芝切りとも。土地を開発して村や町を草創すること,または草創にたずさわった百姓や町人。草分百姓や草分町人の家は領主から優遇され,名主になる場合が多かった。村や町内でも,草分けの家は用水や入会地の用益に特権をもったが,新たな百姓や町人によって権利が侵害される危機にあうと,新参に対する草分けの家格が強調され,村政や宮座の運営などに排他性を生じるようになる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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