衝突型加速器(読み)ショウトツガタカソクキ

化学辞典 第2版 「衝突型加速器」の解説

衝突型加速器
ショウトツガタカソクキ
colliding beam accelerator, beam collider

ビーム衝突加速器ともいう.加速陽子・イオンまたは電子ビームを衝突させることによって,より高い反応エネルギーを得るタイプの加速器.シンクロトロン線形加速器が使用される.素粒子研究用加速器は新粒子発見のために高いエネルギーが要求されるので,静止ターゲットを衝撃する場合より,加速粒子のエネルギーの2倍(同一粒子を衝突させる場合)が反応に得られるビーム衝突型が有利となる.シンクロトロンの場合,前段の加速器から,イオンまたは電子を入射し,さらに加速してリング中に蓄積し,リング上の複数の検出器内で衝突させ,繰り返し実験を行う.わが国の高エネルギー加速器研究機構のトリスタン(TRISTAN,Transposable Ring Intersecting Storage Accelerators in Nippon)は,1995年に実験を終了したが,それぞれ32 GeV に加速した陽電子と電子を衝突させる電子シンクロトロンであった.同じく2000年実験終了の欧州合同原子核研究機関CERNのLEP(Large Electron Positron)も,104 GeV 電子-陽電子衝突リングであった.LEPのあったトンネル中(半径8.5 km)に7 TeV 陽子衝突シンクロトロンLHC(Large Hadron Collider)が,2008年運転開始した.テキサス州ダラス近郊の周長85 km ・10 TeV の陽子衝突シンクロトロンSSC(Superconducting Super Collider)は建設途中で予算過大として中止された.2008年現在,最大エネルギーの加速器はアメリカのフェルミ国立加速器研究所のTevatron,1 TeV の陽子-反陽子衝突型シンクロトロンである.高エネルギーに達したときの軌道放射によるエネルギー損失は,粒子エネルギーの4乗に比例し,軌道曲率半径の1乗および粒子静止質量の4乗に反比例するから電子衝突リングは不利なので,線形加速器が使われる.スタンフォード大学SLAC(Stanford Linear Accelerator Center)Linear Collider SLC(1998年実験終了)は,50 GeV の電子-陽電子衝突線形加速器である.現在,500 GeV のILC(International Linear Collider)計画が進行中である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の衝突型加速器の言及

【素粒子物理学】より

…つまりフレーバーを変えるような中性カレントの出現を妨げるGIM機構の正当性がこの発見で証拠だてられたのである。チャーム粒子の発見に関しては衝突型加速器の発明が非常に重要な貢献を果たした。従来は,円形,または線形の加速器からビームをとり出してそれをターゲットに当て,その際に起こる現象を調べていたのであるが,衝突型加速器では,例えば電子,陽電子を一つの加速管の中で逆方向に回し,何ヵ所かでそれらを衝突させるしくみであって,このようにしてきわめて高いエネルギーが得られるのである。…

※「衝突型加速器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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