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加速器 かそくきparticle accelerator

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

加速器
かそくき
particle accelerator

粒子加速装置ともいう。電子陽子そのほかの荷電粒子を加速して高い運動エネルギーを与え,高速粒子にする装置。真空容器の中で電場を荷電粒子にかけ,電位差に相当したエネルギーを与える。荷電粒子は電子銃,陽イオン源などで発生させる。コッククロフト=ウォルトンの装置バン・デ・グラーフの装置線形加速器のように粒子軌道が直線のものと,サイクロトロンシンクロサイクロトロンベータトロンシンクロトロンのように磁石を用いて粒子軌道を円形にしたものとに分類される。装置によって到達できる最大エネルギーはそれぞれ異なる。直線形のものでは線形加速器が,円形加速器ではシンクロトロンが,それぞれ 10億 eVをこすエネルギーを与える。到達エネルギーが大きいほど装置は大型化する。

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デジタル大辞泉の解説

かそく‐き【加速器】

電子陽子などの荷電粒子を、電界磁界の作用で加速し、高エネルギーの粒子にする装置。その粒子線同士を衝突させて素粒子などの研究を行い、また医学・工業用の放射線源とする。線型加速器と、サイクロトロンシンクロサイクロトロンシンクロトロンなどの円形加速器がある。

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世界大百科事典 第2版の解説

かそくき【加速器 accelerator】

加速装置ともいう。荷電粒子を電磁場による力で加速し,その運動エネルギーを大きくする装置。加速される荷電粒子は,電子,陽子,重陽子,α粒子,各種重イオンであり,特殊なものとして陽電子反陽子がある。加速器は本来原子核や素粒子物理の実験に必要な道具として考え出された。量子力学によれば,粒子は波動性を有し,その波長は運動量に逆比例して短くなる。一般に,物体に波をぶつけ,その反射,回折などから物体の形状や内部構造を観察するためには,波の波長が物体の広がりに比べ十分に小さくなければならない。

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大辞林 第三版の解説

かそくき【加速器】

原子核または素粒子の実験や放射線源を得るために、電子・陽子・イオンなどの荷電粒子を高速度に加速する装置。線形加速器・サイクロトロン・シンクロトロン・ベータトロンなどがある。加速装置。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

加速器
かそくき
accelerator

電子・陽子、あるいは種々の原子・分子のイオンを加速して、これに高い運動エネルギーを与える装置。電子銃、X線管など加速エネルギーの低い装置は、加速器とはよばない。原子核反応をおこさせうるエネルギー、すなわち数十万電子ボルト以上の運動エネルギーを荷電粒子に与える装置と考えるのが妥当であろう。[西村奎吾]

加速器の誕生

1900年の初め、E・ラザフォードとその弟子たちは、放射性物質であるラジウムより放射されるα(アルファ)粒子(ヘリウム原子イオン)を金属薄膜に照射し、原子の中心の非常に小さな体積に原子の質量が集中していることを発見した。これは人類が原子核の存在を直接観測した最初の実験であった。ラザフォードたちは、ラジウムのα粒子を用いてさらに原子核の研究を試みたが、放射性物質からの放射線は、放射される方向がばらばらで、強度も小さく、またそのエネルギーは変えられないという、原子核の構造を調べる手段としてはきわめて不満足なものであった。原子核の構造を調べ、原子核を構成する粒子の相互作用を研究するためには、方向のそろった強度の大きい、そして希望するエネルギーの放射線ビームが得られる装置、すなわち加速器の開発が不可欠であった。
 真空中で電位差Vボルトの2枚の電極の間に置かれた電荷Qの荷電粒子は、電極間の電場で加速され、電位差Vと電荷Qに比例する運動エネルギーを得る(電子の電荷eと等しい電荷をもった荷電粒子が1ボルトの電位差の電場で加速されて得るエネルギーを1電子ボルトという)。したがって初期の課題は、安定な、高い加速電圧を得ることであった。雷の電気を利用するなどの試みもあったが、原子核の研究に用いられた最初の加速器は、ラザフォードの弟子コッククロフトとE・T・S・ウォルトンによって開発された多段倍電圧整流型(コッククロフト‐ウォルトン型)加速器であった(図A)。1932年コッククロフトとウォルトンは、この装置で加速した40万~60万電子ボルトの陽子ビームを用いて、世界で初めて原子核の人工変換の実験に成功した。一方、バン・ド・グラーフは1931年、絶縁ベルトを用いて電荷を電極に運び高電圧を発生させる静電型加速器(バン・ド・グラーフ加速器)を考案した(図B)。電極の絶縁耐圧の限界がこれら直流型加速器のエネルギー上限となる。これに対して交流電圧の位相にあわせて繰り返し加速すれば、低い電圧で高いエネルギーにまで加速することが可能である。ビデレーRolf Widere(1902―1996)は1928年、高周波電圧をかけた円筒形電極を並べた2段加速の線形加速器の開発に成功し、E・O・ローレンスとリビングストンMilton Stanley Livingston(1905―1986)は1932年、一様な磁場内で円運動を行う荷電粒子を、高周波電圧を用いて繰り返し加速するサイクロトロンを発表した。ビデレーはまた1928年、交流磁場の周期的変化による電磁誘導電場を用いて電子を加速するベータトロンの原理を発表した。[西村奎吾]

加速器の発展

これらの加速器は、原子核研究の強い要求に支えられて各地で開発・建設され急速に発展していった。
 直流型加速器では、高絶縁耐圧のガスを詰めたタンクに装置を入れることによって、放電による加速電圧の限界が高められた。さらに負電荷のイオンをプラス電極に向けて加速したのち、正電荷のイオンに変換して、ふたたび同じ電圧で加速し、電極電圧の倍のエネルギーを得るタンデム型加速器が開発された。
 通常型サイクロトロンは、質量一定の荷電粒子の一様な磁場の中での円運動周期がその運動エネルギーによらず一定であることを利用し、荷電粒子を固定周波数の高周波電圧により繰り返し加速する装置である。しかし、加速され粒子のエネルギーが高くなると、相対論的効果により粒子の質量が増加し、円運動の周期はしだいに長くなる。このため、通常型サイクロトロンでは、加速電圧と荷電粒子の円運動周期の位相のずれがしだいに大きくなり、やがて加速できなくなってしまう。
 シンクロサイクロトロン(FMサイクロトロン)では、加速による粒子の質量増加に対応して加速高周波電圧の周波数を下げることにより、加速粒子と加速高周波電圧の位相を同期させ加速を続ける。これにより通常型サイクロトロンのエネルギー限界は取り払われる。
 しかしシンクロサイクロトロンでは加速されたイオンは周波数変調の周期ごとに取り出されるので、時間的に一様なビームではなくパルス・ビームとなり、時間平均したビーム強度は通常型サイクロトロンの100分の1程度となり、またパルス・ビームのためその利用は制限される。
 これに対しAVFサイクロトロンでは、磁極に扇状の高低を付けることによって強い収束性をもたせるとともに、軌道半径に伴い実質的に強くなる磁場をつくり出し、固定周波数の高周波電圧で加速する。これによりエネルギーの増加に伴う軌道半径の増加が抑えられ、通常型サイクロトロンのエネルギー上限を超えて、時間的に一様で収束性に優れたイオン・ビームが得られるようになる。現在では、すべてのサイクロトロンはAVF型である。
 また、荷電粒子の軌道に沿ってリング状に並べた磁石の磁場強度を荷電粒子のエネルギーの増加とともに強め、荷電粒子のエネルギー量にかかわらず粒子の軌道を一定に保つシンクロトロンの考案は、高エネルギー加速器の建設費用を大幅に下げることを可能にした。このようにして、建設費と土地の問題を除けば、加速器のエネルギーの上限は原理的にはなくなったと考えられる。[西村奎吾]

加速器の種類と原理

現在実用化されている加速器はのように、いずれも電磁的相互作用を利用して荷電粒子を加速するものであり、加速する粒子をイオン化するイオン源あるいは電子銃(電子加速器の場合)を必要とする。イオン源には高温に熱せられたフィラメントからの熱電子を照射してガスをイオン化する、あるいは高周波放電によって気体をイオン化するなどいろいろな方式がある。またタンデム型加速器などの負イオン源では荷電交換反応などが利用される。重イオン(重い原子のイオン)加速器などでは、いかに効率よく大電流のイオンビームを安定的に発生させるかが加速器開発の重要な課題となっている。さらにスピン偏極したイオンビームを発生させる偏極イオン源など特殊なイオン源も開発されている。加速される荷電粒子が残留ガス分子とのクーロン相互作用によってエネルギーを失うことを避けるために、加速器には高い真空度が要求される。真空技術の進歩が加速器開発を支えてきたといっても過言ではない。とくに多価の電荷をもつ重イオンの場合には、残留ガスとのクーロン相互作用の影響は重要で、高エネルギー重イオン加速のためのシンクロトロンなどでは10-10トル(~10-8パスカル)以上の高真空度が要求される。また加速中に荷電粒子の流れ(ビーム)が広がり発散してしまわないために、ビームの収束性を保つことも加速器の重要な要件である。
(1)直流電場加速 直流高電圧を発生させ、これによって荷電粒子を加速するもので、交流電圧を変圧器を用いて昇圧、さらに多段倍電圧整流によって高電圧を得るもの(コッククロフト‐ウォルトン型)と、絶縁された電極に絶縁ベルトを用いて電荷を運び、電極の電圧を昇圧する静電型(バン・ド・グラーフ型)がある。前者は構造が簡単で容易に大電流が得られるが、多段倍電圧整流のため電圧変動(リップル)が大きく、加速粒子のエネルギー幅が大きくなる。一方、静電型ではベルトで電荷を運んで昇圧しているので、コッククロフト‐ウォルトン型に比べると得られるイオン電流は少ないが、放電ギャップなどの簡単な電圧安定化装置によって加速粒子のエネルギーの変動幅をきわめて小さく保つことが可能で、加速電圧、つまり粒子のエネルギーを変えることも容易である。アース電位よりプラス電位の高電圧電極に向けて負イオンを加速し、高電圧電極内でイオンの外殻電子をはぎとって正イオンとして、プラス電極よりアース電極に向けふたたび加速するタンデム型バン・ド・グラーフ加速器では、高電圧電極電圧の倍のエネルギーに加速することができる(図C)。
(2)交流電場加速 (1)の型の加速器では発生させた高電圧によって粒子のエネルギーが決定され、電極の絶縁耐圧によって加速エネルギーが制限される。これに対し交流電場を用い、交流の位相にあわせて繰り返し加速することによって比較的低い電圧で高いエネルギーにまで粒子を加速しようというのが、交流電場加速のアイデアである。磁場を用いずに電極を直線的に配置し、これらの電極に交互に交流電圧をかけて次々に加速する線形加速器と、磁場を用いて加速粒子を回転軌道に沿って走らせて、同じ加速電場で繰り返し加速する円形加速器がある。
 図Dのように線形加速器では、荷電粒子が電極内を通過して次の電極との間隙(かんげき)に現れるまでの時間が、電極に加えられる高周波電圧の位相の180度進む時間に等しくなるように、電極の長さが調整されている。したがって電極間の電場で加速された粒子が電極内を通過して次の電極間に現れたとき、電極間の電圧はふたたび加速の位相になっており、粒子は電極間の電圧によって加速されていくのである。陽子あるいは重いイオンの場合には、加速されるにしたがって粒子の速度が速くなるので、電極の長さをそれにあわせて次々に長くしなければならない。しかし電子線型加速器では電子の質量がきわめて小さく、十分低いエネルギーでほとんど光速に達してしまうので、電極構造は単純になり、円筒内を進行波として進むマイクロ波によって加速される。
 円形加速器は、直流磁場を用いるものと交流磁場を用いるものとに分けられる。一様な磁場中で荷電粒子は円運動を行うが、非相対論的近似では円運動の周期は粒子のエネルギーによらず一定である。サイクロトロンではこの性質を利用し、一様な磁場内で円運動をする荷電粒子を円運動の中心を挟んで相対する2枚の電極に印加した一定周波数の高周波電圧によって繰り返し加速する(図E)。電極の間に置かれたイオン源から高周波電圧によって引き出された荷電粒子は、磁場によって曲げられ半円を描いて電極内を通過し、ふたたび電極の間に顔を出す。この間に高周波電圧の位相が180度進むように高周波の周波数を選んでおけば、荷電粒子はエネルギーの増加とともにしだいに軌道半径を大きくしながら繰り返し加速され、エネルギーを高めていくのである。粒子の運動エネルギーが高くなると相対論的効果により粒子の質量が増加し、回転の周期はしだいに長くなる。このため高周波電圧の位相と粒子が加速電極の間隙に現れるタイミングにずれが生じ、やがてまったく加速されなくなってしまう。サイクロトロン加速のエネルギー上限は加速高周波の電圧にも依存するが、陽子に対して約2500万電子ボルトである。
 相対論的効果によるサイクロトロンの加速エネルギーの上限を超えるためには、二つの方法が考えられる。一つはエネルギーが増加し粒子の円運動周期が長くなるに伴って加速高周波の周波数を下げていく、すなわち加速高周波を周波数変調して粒子が電極間隙に現れるタイミングと高周波加速電圧の同期をとる方法である。シンクロサイクロトロンでは、加速高周波電圧の周波数変調によって加速粒子と加速電圧位相の同期をとっている。シンクロサイクロトロンはFM(Frequency Modulated)サイクロトロンともよばれる。この方法でサイクロトロンのエネルギー上限を超える高いエネルギーにまで粒子を加速することが可能であるが、周波数変調の1周期ごとに1回の加速粒子ビームを得ることになるので、時間平均したビーム強度はサイクロトロンの100分の1程度となる。一方サイクロトロンの磁場を中心より外に向かってしだいに強くなるようにすれば、粒子のエネルギー増加に伴う軌道半径の増大は抑えられ、粒子の質量の増加による回転周期の遅れをなくすことができる。しかし中心から外に向かって強くなる磁場は、回転軌道を走る荷電粒子に対して上下方向に発散する力を及ぼすので、ビームはしだいに広がり消滅してしまうことになる。AVF(Azimuthally Varying Field)サイクロトロンは、磁極に扇形の山と谷をもつ電磁石により、粒子の運動方向に磁場の強い部分と弱い部分をつくり、これによって加速粒子に対して強い収束作用をもたせ、しかも外に向かって実効的に強くなる磁場をつくった加速器である。AVFサイクロトロンは通常型サイクロトロンのエネルギーの上限を克服できるだけでなく、その強い収束作用によってビームのエネルギー幅、安定度、強度などにおいて非常に優れた性能をもつ加速器である。このため最近ではサイクロトロンのほとんどがAVF型となっている。AVFサイクロトロンはSF(Sector Focus)サイクロトロン、あるいは提案者の名前をとってトーマス・サイクロトロンともよばれる。原理的にはAVFサイクロトロンと同じであるが、リング状に並べた扇形の磁石の間に、ある程度のエネルギーにまで加速した(前段加速という)荷電粒子を入射し、磁石の間に置かれた高周波電極を用いて加速するリング・サイクロトロン(Separated Sectorサイクロトロン)は、高いエネルギーの加速器の場合にはAVFサイクロトロンより建設費を低く抑えることができる。さらにリング状に並べた磁石を交流励磁して、加速粒子のエネルギーの増加にかかわらず粒子の軌道を一定に保つようにすれば、必要な磁場は粒子の軌道に沿った狭い範囲に限られ、加速器の建設材料費を切り下げることができる。交流励磁の小型磁石をリング状に並べ、これによって粒子の軌道を一定に保ちながら加速する加速器がシンクロトロンである(図F)。シンクロトロンでは運動エネルギーのきわめて低い状態から粒子を加速することはできないので線形加速器、バン・ド・グラーフあるいはサイクロトロンなどの加速器で、ある程度のエネルギーにまで加速した粒子を入射して加速することになる。粒子の速度が運動エネルギーとともに上昇する非相対論的状態では、粒子のエネルギーの増加に伴って磁場の励磁電流とともに周波数を高くする周波数変調の高周波電圧で加速することが必要であるが、粒子の速度が光速に近づけば加速による速度の増加はほとんど無視できるようになり、固定周波数の加速電圧で加速を続けることが可能になる。電子の場合には比較的低いエネルギーでほとんど光速になってしまうので、電子シンクロトロンの加速高周波電圧は周波数固定である。
(3)交流磁場加速 交流磁場の磁束密度の時間的変化によって生ずる電場により荷電粒子を加速するもので、電子を加速するベータトロンはこの型の唯一の加速器である(図G)。
(4)多段加速器 前述のシンクロトロンでは荷電粒子をエネルギーの低い状態から最高エネルギーまで一気に加速しようとすると、軌道を一定に保持するために磁場の可変範囲を大きくすることが必要になり、技術的に製作が困難になる。このため、バン・ド・グラーフなどの前段加速器によって適当なエネルギーにまで加速してからシンクロトロンに入射するが、非常に高いエネルギーにまで加速するには1段のシンクロトロンで一気に加速するよりもシンクロトロン自体を何段にも分け、適当なエネルギーにまで高めては次の段のシンクロトロンに入射加速する多段加速器が有利になる。
(5)貯蔵リング(Storage Ring)と衝突ビーム型装置(collider) 加速器から引き出された荷電粒子ビームを、静止している標的粒子に衝突させたとき、反応に使われるエネルギーは照射粒子と標的粒子の重心系のエネルギーで、残りは衝突後の粒子の運動エネルギーになる。粒子のエネルギーが高くなると相対論的効果による質量増加のために、反応に使われる重心系のエネルギーは加速粒子の実験室系エネルギーの平方根に比例してしか増加しない。しかし加速粒子どうしを正面衝突させれば、加速粒子のエネルギーのすべてが反応に使われることになる。磁石をリング状に並べた貯蔵リングとよばれる装置に高エネルギーの加速器から引き出された荷電粒子を入射貯蔵し、これに加速器から引き出された荷電粒子を正面衝突させ反応をおこさせるのが貯蔵リング・衝突ビーム型装置である(図H)。貯蔵リングには、加速器から取り出した荷電粒子だけでなく、荷電粒子を標的に照射して生成された陽電子や反陽子なども入射貯蔵できるので、このような装置を用いて電子・陽電子衝突、陽子・反陽子衝突などの実験も行うことができる。[西村奎吾]

加速器の現状と今後

加速器を用いる研究は物質の構造に関する多くの謎(なぞ)を解き明かしてきた。そして研究の発展は、より深く物質の内部に入り込んでいくために、より高いエネルギーを要求している。こうして次々に、より高いエネルギーの加速器が開発されてきた。現在働いている、あるいは近い将来働きだす予定の巨大加速器は、その占める面積が数平方キロメートルないし数十平方キロメートル、建設費は数億ドルから数百億ドルと、一国で建設維持しうる限度に達している。1987年アメリカのレーガン大統領の決断によって建設を開始したアメリカの巨大加速器SSC(Superconducting Super Collider)計画は40テラ電子ボルト(TeV)=40000ギガ電子ボルト(GeV)陽子―陽子衝突型装置であったが、当初59億ドルと見積もられていた建設費が100億ドルを超えると想定されるに至り、ついに1993年アメリカ議会で否決され、建設なかばで中止に追い込まれることになった。20億ドルを超える予算が費やされ、研究所が設立され2000人を超える物理学者や多数の技術者を巻き込んだ計画の中止は、アメリカのみならず世界各国にも衝撃を与える事件であった。SSC計画挫折後のエネルギー・フロンティアとしてヨーロッパ原子核研究機構(CERN:European Organization for Nuclear Research)が建設した15TeV(テラ電子ボルト)陽子―陽子衝突型加速器LHC(Large Hadron Collider)は2008年に稼動開始、2012年にアトラス(ATLAS:A Toroidal LHC ApparatuS)実験グループによりヒッグス(と思われる)粒子が発見された。日本ではリニアック(400MeV)・シンクロトロン(3GeV)・シンクロトロン(50GeV)の3台で構成される大強度陽子加速器研究施設J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)が建設され、LHCで発見されたヒッグス(と思われる)粒子の検証、詳細解明の作業が進められている。また、独立のリングに蓄積した8ギガ電子ボルトの電子と3.5ギガ電子ボルトの陽電子を衝突させて素粒子実験を行うKEK-Bファクトリーの計画も進行している。さらにLHC実験結果を補完することに期待のかかる「国際リニアコライダー(ILC)」と「コンパクト・リニアコライダー(CLIC)」の直線型粒子加速器建設計画が「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」に統合され、国際素粒子物理プロジェクトとして進行中である。一方、より小型で効率のよい加速方法を求める努力もさまざまに試みられている。高密度の電子の雲によって陽子や重イオンを捕獲して加速する電子リング加速のアイデアが、1956年にベクスラーVladimir I. Veksler(1907―1966)によって提案され各地で研究されているほか、レーザーを用いる加速器、電子よりも質量の大きなμ(ミュー)中間子を加速することによって電子加速器の場合に深刻な問題になるシンクロトロン放射の問題を避けようというμ+μ-コライダー(衝突型加速器)などのアイデアも提案されているが、実用の段階に達しているものはない。
 より高いエネルギーによって、より深く物質の構造を極めようとするエネルギー・フロンティアとともに、より低いエネルギー領域の精密な、また多様な系統的研究のために多くのタンデム型バン・ド・グラーフやAVFサイクロトロン、あるいはリング・サイクロトロンが世界各地で建設されている。また非常に重い原子イオンを高エネルギーに加速衝突させ、核物質の高密度状態を研究するための高エネルギー重イオン加速器の計画も進められている。
 一方、加速器の原子核・素粒子以外の基礎科学分野への応用や、工業的・医学的利用も注目を集めている。高エネルギー重イオンビームを照射して結晶に重元素を注入する技術は半導体工業などで定着した手段となっており、また高エネルギー重イオンビームや高エネルギーイオンによってつくられる中間子ビームを癌(がん)の治療に使うなど、医学的利用も加速器の重要な応用分野となっている。しかし近年とくに関心をもたれているのは高エネルギー電子によるシンクロトロン放射の利用である。
 高エネルギー荷電粒子が円軌道を描くとき、軌道の法線方向にシンクロトロン放射とよばれる光(放射光)が放射される。高エネルギー円形加速器では、シンクロトロン放射による加速粒子のエネルギー損失の問題は深刻で、とくに電子円形加速器ではシンクロトロン放射による加速限界も論じられている。しかし高エネルギー電子によるシンクロトロン放射は真空紫外線からX線領域にわたる広い波長範囲の比類のない強力な光源として注目され、世界各国でこれを利用するための施設(放射光施設、フォトン・ファクトリー)が建設されている。[西村奎吾]
『M・S・リビングストン著、山口嘉夫・山田作衛訳『加速器の歴史』(1973・みすず書房) ▽亀井亨・木原元央著『加速器科学』パリティ物理学コース(1996・丸善)』

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