裸足の乱(読み)らそくのらん

改訂新版 世界大百科事典 「裸足の乱」の意味・わかりやすい解説

裸足の乱 (らそくのらん)

1639年,北フランスのバス・ノルマンディー地方を中心に展開された民衆蜂起。1635年,三十年戦争に参加したフランス王権は,戦争が長期化するにつれて増大する戦費調達のために,直接税タイユをはじめとする各種租税の増税や都市強制借用金の割当てを相次いで強要した。それは地方の慣行特権を侵害するものであり,これに対して地方住民は租税不払いと密売買という抵抗の動きをみせていた。このような情勢を背景として,39年7月16日,バス・ノルマンディーのアブランシュ市の市日に,集まった周辺農漁村民が一役人を塩税徴収人と誤って殺害する事件が発生した。それは当地方の税制上の特権(四分の一塩税特権)の廃止と主要な生業である製塩業禁止の噂が住民を極度の不安に陥れていたからである。反乱は当地方の都市や農村に拡大し,各地で徴税役人やその関係機関が襲撃され,州都ルーアンやカンにも飛火した。反乱の拡大とともに,ジャン・バ・ニュ・ピエJean Va-Nu-Pieds(裸足のジャン)とあだ名された不明の人物を指導者とし,農漁村民や荷役人などからなる〈苦悩軍隊〉と呼ばれた軍団組織ができ,周辺地方へ波及する勢いを示した。パリの王政府は反乱の首都圏への波及を恐れて,11月になってピカルディー戦線から軍隊の一部を割いて反乱の鎮圧に当て,鎮圧後の同年末から40年にかけて大法官セギエを派遣し凄惨(せいさん)な報復処刑を行った。それはノルマンディーが首都圏に隣接する豊饒の地であり,王国財政に重大な影響を与える地方だったからである。反乱は徴税関係者を攻撃対象とする反国王課税の蜂起であるが,それは地方特権を縮小して近代的集権国家への道を歩みはじめた中央政権に対して,地域の慣行と文化を守ろうとする地方住民の抵抗の表れであり,16世紀末以来の民衆反乱の延長線上に発生した最も大規模な反乱であった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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