デジタル大辞泉
「抵抗」の意味・読み・例文・類語
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てい‐こう‥カウ【抵抗】
- 〘 名詞 〙
- ① 外からの力にはりあうこと。また、権力や古い道徳などにさからうこと。抵拒。
- [初出の実例]「何分にも気力薄弱にて、暴風迅雨に抵抗すると申様参不レ申候」(出典:横井平四郎・宮部鼎蔵・丸山運介等宛吉田松陰書簡‐安政五年(1858)三月二四日)
- 「しかし苟も長官たる者に向って抵抗を試みるなぞといふなア、馬鹿の骨頂だ」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
- ② 加えられた力に対して、それと反対の方向にはたらく力。特に、物体や流水の運動をさまたげ、エネルギーの損失を伴う現象。空気中を運動する物体に対する空気抵抗、固体の表面をすべる物体に対する摩擦抵抗、電流に対する電気抵抗など。
- [初出の実例]「然ども炊気も瓦斯も大気の圧力に抵抗す気圧弱きは為り易く盛なるときは為り難し」(出典:舎密開宗(1837‐47)内)
- ③ =ていこうかん(抵抗感)
- [初出の実例]「此の巻は幼童の脳中に漢字を導入するに務めて混雑と抵抗を除きて、流通を易くし」(出典:日本読本(1887)〈新保磐次〉一)
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抵抗 (ていこう)
resistance
drag
抵抗力,または抗力ということもある。流体中を運動する物体に働く力のうちで,進行方向と逆方向の成分。流れの中におかれた物体では流れの方向に働く。抵抗をD,液体の密度をρ,流体と物体の相対速度をU,物体の断面積,あるいは代表長さの自乗に相当する量をSとしたとき,Cd=D/(1/2ρU2S)で定義される無次元数Cdを抵抗係数と呼ぶ。また流体が物体面に及ぼす応力のうち,面に垂直な圧力の合力によるものを圧力抵抗(物体の形状により著しく異なるので形状抵抗ともいう),接線方向に働く摩擦力によるものを摩擦抵抗と呼ぶ。
無限に広い流体中を音より遅い速度で進行する物体の場合,レーノルズ数が十分小さければ,圧力抵抗と摩擦抵抗とは同程度で,ともに流れと物体との相対速度に比例(レーノルズ数に反比例)する。一方,レーノルズ数の高い流れでは,流線形の物体とそうでない物体とでは著しい差異が現れる。流線形の物体では抵抗が非常に小さく,しかも大部分は表面の境界層における摩擦抵抗である。一方,球や円柱のようにずんぐりした物体では境界層がはがれて後方に乱れた領域ができ,圧力が低下するので圧力抵抗を生じ,大きな抵抗の原因となる。一般に境界層の流れが乱流になった場合は摩擦抵抗は増大するが,ずんぐりした物体では,境界層のはがれる点が後方に移動するので,圧力抵抗が減り,抵抗が逆に小さくなることがある。レーノルズ数がもっと増大すれば抵抗係数は(壁の粗さにはよるが)レーノルズ数によらぬ一定値に近づく。超音速で進行する物体では密度を一定とみなすことができなくなって,衝撃波が生ずるし,水面や水面下,あるいは成層流体中を進行する船などでは,波によって運動量やエネルギーが遠くに運ばれるので,造波抵抗が現れる。造波抵抗は物体の形や波の機構によって著しく異なり,超音速機ではむしろ先端を鋭くして衝撃波を弱くするとか,船では先端を逆に膨らませたり長さを適当に選んで波を干渉させ放出波を少なくするなどのくふうが行われる。速度が時間的に増加する物体や加速流中におかれた物体では,流体との運動量のやりとりのため抵抗を生じ,見かけ上質量が増加したように見える。これを誘導質量と呼ぶ。
完全流体の一様な流れの中におかれた無限に長い板状の物体には,流れに直角方向の揚力のみ働き抵抗は作用しない(クッタ=ジューコフスキーの定理)。しかし板の長さが有限の場合,板に揚力が働くときには板の後縁から渦が発生し,この渦の放出によって板の付近に下向きの速度が誘導されて抵抗が現れる。この抵抗を誘導抵抗ということがある。なお,電気抵抗のことを単に抵抗という場合も多い。
執筆者:橋本 英典
抵抗 (ていこう)
resistance
精神分析の用語。患者は意識的には病気を治したいと思って精神分析者のもとにやってくるわけであるが,分析治療が始まると,しばしば無意識的に治療の進行を妨げるようなことをする。これを抵抗といい,自由連想(自由連想法)をやっても何も心に浮かんでこなかったり,逆にむやみにしゃべりつづけたり,いったん納得したはずの解釈に愚にもつかぬ文句をつけたりするなどの言動を指す。患者は,たしかに神経症に苦しんではいるが,他方では神経症になることによって葛藤から逃れ,歪められた形ではあるが自分の立場を強くすることができているわけで,神経症に執着してもいる。だから治療に抵抗するわけで,抵抗は,ふつごうな観念や衝動を無意識へと抑圧した自我の防衛と同じ起源のものであり,抑圧された無意識的なものがふたたび意識化されて自我の安定を脅かすことを防ごうとするものである。抵抗の解釈と克服が精神分析療法の重要な側面である。
執筆者:岸田 秀
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抵抗
ていこう
(1)流体中を物体が動くときに、流体から物体に作用する力のうち、物体の運動を妨げようと働く力のこと。物体表面付近では流体の粘性のために境界層が生じ、その部分では、物体表面に垂直に働く力(圧力)と平行に働く力(摩擦応力)が生ずる。物体表面全体にわたって圧力を積分して、物体の運動方向の逆向きの圧力が残っている場合、圧力抵抗が存在するという。完全流体の場合、圧力抵抗は働かない。粘性による抵抗=摩擦抵抗の例は、水中での運動のときや、鉄球が水飴(みずあめ)に沈んでいくときなど、日常においてなじみ深い。飛行機の翼の場合、翼の端から渦が発生し後ろへ引きずっている。この渦のため翼の近くで下向きの空気の流れが誘導され、上昇しようとする飛行機に対し下向きの力が生ずる。これを誘導抵抗という。
(2)一様な導線を流れる電流の強さJは、導線の両端にかけられた電位差Vに比例し(オームの法則)、その比例係数Rを電気抵抗という。電気抵抗は、電流の強さJや電位差Vにはよらず、導線の種類・太さ・長さ・温度などで決まる。金属導体では、電流は、自由電子が電位差に伴う電場Eを受けて流れるために生ずる。このとき、熱運動をしている金属原子や不純物原子と衝突して、自由電子の流れが妨げられることが電気抵抗の原因である。金属の温度を下げていくと、原子の熱運動が小さくなるため抵抗は小さくなる。ある特殊な金属(水銀・鉛など)では、ある有限の温度で電気抵抗がゼロになる。この現象を超伝導という。
[池内 了]
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抵抗
ていこう
drag; resistance
抗力ともいう。流体中を運動する物体が,進行方向に対し逆向きに受ける力をいう。流体が物体表面に及ぼす力は,表面に垂直な圧力と,平行な粘性力との 2成分に分けられる。抵抗のうち,圧力だけの合力から成る部分を圧力抵抗,粘性力だけの合力を粘性抵抗または摩擦抵抗という。抵抗の大きさ D は,物体の形状によって異なり,物体の速度 U によっても変化する。たとえば球の場合,レイノルズ数 R=2ρaU/μ (a は球の半径,ρ は流体の密度,μ は流体の粘性率) の値が R<1 の範囲の遅い運動では,ストークスの抵抗法則 D=6πμaU が成り立ち,R=103~105 の範囲の速い運動では,ニュートンの抵抗法則 D∝ρU2 が近似的に成り立つ。また,物体が流体中を超音速で運動する場合には,衝撃波が発生し,水面上を進む場合には水の波ができるが,物体はこれらの波をつくりだすためにエネルギーを失うので,そのための抵抗を受ける。これを造波抵抗という。また,オーム単位で表わされる電気抵抗をさして単に抵抗ということもある。
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抵抗【ていこう】
(1)物体が流体中を運動するとき流体から受ける力のうち,運動と逆方向の成分。物体が流体から受ける力は,面に垂直な圧力の合力による圧力抵抗と,面に平行な方向に働く摩擦力による摩擦抵抗に分けられる。物体と流体の相対速度が比較的小さいときは抵抗は粘性によって生じ,粘性抵抗(圧力抵抗と摩擦抵抗からなる)と呼ばれ,相対速度と粘性率に比例する(ストークスの法則)。速度が速くなると渦が発生し抵抗は増大して相対速度の2乗に比例する。これは流体の形に強く依存するので形状抵抗と呼ばれる。船の場合このほか造波抵抗が重要。航空力学では抵抗を抗力という。(2)電気では電気抵抗をいう。
→関連項目減衰器
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普及版 字通
「抵抗」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典(旧版)内の抵抗の言及
【オームの法則】より
…これをオームの法則という。ここでRはその針金に固有の定数で,電気抵抗あるいは単に抵抗と呼ばれる。1826年にG.S.オームは熱伝導との類推から上の関係を推測し,実験によりRが電圧によらないことを確かめた。…
【電気抵抗】より
…導体に電流を流すとその両端には電流に比例した電位差が生ずるが,電位差Vと電流Iの比,R=V/Iを電気抵抗という。単に抵抗という場合も多い。…
【精神分析】より
… さて,治療の実際は,たとい順調にはじめられたようにみえても,早晩,患者の連想はとどこおるようになる。これは患者の自我のなかに意識的・無意識的な[抵抗]が生じることに基づく。この抵抗は,患者自身が認めたくない衝動を無意識へと押し戻した自我の働きと同一のものである。…
【抗力】より
…垂直抗力だけしか働かない面は滑らかであるという。また航空力学などでは,流体中を運動する物体に流体が及ぼす力のうち,物体の運動を妨げる向きに働くものを抗力dragという。【小出 昭一郎】。…
【船型】より
…潜水型はいわゆる[潜水艦]の船型で,高い水圧を受けるので回転体に近い形状をしている。深い水中を航走するときは,造波抵抗を受けないので,30ノット以上の速力を出すことも可能である。滑走型は水面上を滑走することによって揚力を受ける型式で,小型かつ高速で航走するレーサー,プレジャーボート,軍用艇などに採用される。…
【翼】より
…以下では航空機の固定翼について述べ,回転翼については〈[ヘリコプター]〉の項目を参照されたい。
【翼の働き】
翼に限らず物体が空気中を動くと,空気抵抗を受けると同時に,多くの場合大なり小なり上向きか下向きの空気の力も受ける。そこで動く物体に働くこれらの空気力を,進行方向に平行な抗力(抵抗といってもよい)と直角な揚力とに分けて考える。…
※「抵抗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」