日本大百科全書(ニッポニカ) 「誓文払」の意味・わかりやすい解説
誓文払
せいもんばらい
旧暦の10月20日に京都の商人や遊女たちが、1年のうち商売上やむをえずついた嘘(うそ)の罪を祓(はら)い、神罰を逃れるために四条寺町(てらまち)にある官者殿(かじゃでん)(冠者殿)に参詣(さんけい)する風習をいう。官者殿は誓文返しの神で、悪王子の社(やしろ)ともいい、嘘つきの代表である土佐房昌俊(とさぼうしょうしゅん)を祀(まつ)るともいう。この日、商人の身代りとなって垢離(こり)をとる乞食(こじき)坊主をすたすた坊主ともいって、天保(てんぽう)期(1830~44)ころまでみられたという。この誓文払と関係深い行事に夷講(えびすこう)と嘘つき祝い(無実講)とがある。京阪(けいはん)地方の夷講は、この月の15日から21日まで罪滅ぼしの大売り出しをするもので、初めは呉服店で恵比須切(えびすぎれ)(寄せ切れ)の販売をしたものが他の品種にも及んだものといわれる。現在では毎年恒例の特売行事としてにぎわっている。またこれと日取りは異なるが、12月8日を中国地方では嘘つき祝い、中部地方では無実講などといって、豆腐やこんにゃくを食べて嘘つきの罪滅ぼしをする風習がある。
[新谷尚紀]