坊主(読み)ぼうず

精選版 日本国語大辞典 「坊主」の意味・読み・例文・類語

ぼう‐ず バウ‥【坊主】

〘名〙
① 仏語。大寺院の中の、一坊の主僧をいう。僧房のあるじ。寺房の住職。「房主」とも書く。房主。
今昔(1120頃か)四「此の象を僧房に繋げり。其の房主、常に法花経を誦し奉るに」
② 僧侶の俗称。室町時代以後、行なわれた称呼。
謡曲鞍馬天狗(1480頃)「姿も心も荒天狗を、師匠や坊主とご賞翫は」
③ 髪を剃(そ)ったり短く刈ったりした頭。毛のない頭。また、その人。
浄瑠璃・赤染衛門栄華物語(1680)三「誠にむくつけき此ばうずめをあはれとおぼしめさるる事」
④ 江戸幕府の職名。同朋頭(どうぼうがしら)の支配に属し、剃髪(ていはつ)、法眼(ほうげん)で城内の雑役に従ったもの。茶室を管理し、将軍や毎日登城する大名・役人に茶をすすめる奥坊主と、登城する大名の世話をやき、大名や諸役人の給仕をする表坊主に分かれたが、他に数寄屋頭(すきやがしら)の支配に属し、茶礼・茶器を掌り、喫茶を取り扱う数寄屋坊主などもいた。
※武家厳制録‐四〇・奥坊主衆御条目・万治二年(1659)九月五日「表二箇所之茶湯之席に当番之坊主、懈怠なく有之て」
⑤ 丸くて毛の生えていないもののたとえ。木の生えていない山や葉の散ってしまった木などにもいう。
※俳諧・鷹筑波(1638)二「枝折て坊主(バウズ)になすなちご桜〈一徳〉」
⑥ (昔、剃髪する習慣があったところから) 男の幼児を、親しみまたはあざけりの気持をこめて呼ぶ語。男女に関係なくいうこともある。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)一「此お家へ坊主(バウズ)の時御奉公に参って」
⑦ 芸事や学問などの師で頭を丸めている人。師匠。
※玉塵抄(1563)一五「坊主の曾子が弟子をひきつれてその難をはづいたぞ」
⑧ カルタの用語。
(イ) 天正カルタで一〇の札。
※咄本・軽口あられ酒(1705)五「九壱枚にぼうず二まいもかう」
(ロ) 花札で、八月の芒(すすき)の二〇点札。また、芒の札四枚(二〇点札・一〇点札各一枚と素札二枚)をもいう。
※歌舞伎・小袖曾我薊色縫(十六夜清心)(1859)五立返し「いや、雨は真平だ。坊主を消しやす」
⑨ ある語に添えて、他人に対する親しみ、またはあざけりの意を表わす語。「三日坊主」「いたずら坊主」など。
⑩ 稲・麦などの品種。主に北海道で栽培された耐寒・多収品種。
※千曲川のスケッチ(1912)〈島崎藤村〉一一「なにしろ坊主九分混りといふ籾ですからなア」
⑪ (坊主の頭に毛が一本もないというところから)
(イ) 釣り用語で、一尾も釣れないこと。
(ロ) タイヤなどが磨り減って溝がない状態をいう。〔マイ・カー(1961)〕
丸太のこと。江戸時代、上方の大工仲間が用いた語。
マッチをいう、盗人仲間の隠語。〔日本隠語集(1892)〕
※林檎の下の顔(1971‐73)〈真継伸彦〉四「『エンタはあるけど、ボウズがあらへん』ひとりが答え、やがて紫煙のたつ煙草をまわしあうと」

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デジタル大辞泉 「坊主」の意味・読み・例文・類語

ぼう‐ず〔バウ‐〕【坊主】

寺坊のあるじである僧。寺院で一坊を構えた僧をさしていった。
一般に、僧。室町時代以後に行われるようになった称。
髪の毛のない頭。また、毛をそったり短く刈ったりした頭。「負けたら坊主になる」「丸坊主
表面を覆っているべきものがないさま。「山が坊主になる」「植木が坊主になる」
《昔、男児が頭髪をそる習慣があったところから》男の子を親しんだり、あざけったりして呼ぶ語。「坊主を連れて買い物に行く」「坊主、よくやったな」
釣りで、まったく釣れないこと。おでこ。「坊主に終わる」
茶坊主」の略。
奥坊主」「表坊主」「数寄屋坊主」の略。
《形状の類似から》花札のすすき(月)の20点札。
10 他の語の下に付いて複合語をつくる。
㋐男の子への親しみの意を表す。「いたずら坊主」「やんちゃ坊主
㋑あざけりやからかいの意を表す。「三日坊主
[類語](1)(2僧侶坊さん御坊お寺様僧家沙門法師出家比丘僧徒桑門和尚住職住持方丈入道雲水旅僧/(5坊や坊ちゃん

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改訂新版 世界大百科事典 「坊主」の意味・わかりやすい解説

坊主 (ぼうず)

もとは房主とも書き,僧房の主をいった。のちの住持,住職にあたり,また一般に僧侶の呼称ともなった。
坊主衆

江戸幕府には同朋頭(若年寄支配)の配下に茶室を管理し,将軍,大名,諸役人に茶を進めることを職務とする奥坊主組頭(50俵持扶持高,役扶持二人扶持,役金27両,御目見以下,土圭間詰,二半場),奥坊主(20俵二人扶持高,役扶持二人扶持,役金23両,御目見以下,土圭間詰,二半場)100人前後,および殿中において大名,諸役人に給事することを職務とする表坊主組頭(40俵二人扶持高,四季施代金4両,御目見以下,躑躅(つつじ)間詰,二半場),表坊主(20俵二人扶持高,御目見以下,焼火間詰,二半場)200人前後があった(この職は大名,諸役人からの報酬が多く,家計は豊かで,そのため奢侈僭越に流れたという)。また茶室に関するいっさいのことをつかさどる数寄屋頭(若年寄支配)の配下に,数寄屋坊主組頭(40俵持扶持高,四季施代金4両,御目見以下,躑躅間詰,二半場),数寄屋坊主(20俵二人扶持高,御目見以下,焼火間詰,二半場)40~100人ほどがあった。このほかには,二条城御殿預(所司代支配)の配下に,坊主(現米10石二人扶持)17人のあったことが知られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「坊主」の意味・わかりやすい解説

坊主
ぼうず

本来は寺院の僧坊(房)の主の意で、寺坊の住職を称し、「房主」とも書き、「ぼうしゅ」ともいった。室町時代以後、意味が拡大し、広く僧侶(そうりょ)の総称となり、さらに髪を剃(そ)ったり短く刈った頭や、そのような人をも称するようになった。また、江戸幕府の役職として、大名や諸役人に対して、茶の接待をする「奥(おく)坊主」、給仕をする「表(おもて)坊主」、さらに茶礼・茶器・喫茶を受け持つ「数寄屋(すきや)坊主」もいた。また、近世では芸事や学問の師匠で髪を剃った人をも称した。また昔、幼児が頭髪を剃る習慣があったことから、親愛や軽卑の感情を込める称呼としても用いられた。男児が多いが、女児にも用いられた例もある。形状の類似に基づく連想から意味はさらに拡大し、木の生えていない禿(はげ)山や、花札の「月」の札や「ネギ坊主」など、さらには、盗人や的屋などの隠語のなかにもみいだされるなど、きわめて多義的に用いられている語である。

[藁科勝之]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「坊主」の解説

坊主
ぼうず

1房主とも。原義は寺院における僧侶の居室である坊(房)の主のこと。平安末期から御坊などともよばれ,寺院における有力僧の尊称でもあった。室町時代以降,僧形の者も含め広く僧侶一般の呼称となり,しだいに僧侶の賤称となった。幼時に剃髪する習慣があったことから,男児の呼称としても用いられる。

2江戸幕府の職制。武家に奉仕して茶の湯の世話をする坊主を茶坊主といい,江戸時代には,江戸城内において剃髪・法服で雑務に従事する職も坊主といった。同朋頭のもとに表座敷を管理する表坊主,将軍の身近で奉仕する奥坊主,御用部屋に勤務する御用部屋坊主,土圭(とけい)の間に勤務する中奥坊主がおかれ,また数寄屋頭のもとに喫茶を扱う数寄屋坊主,寺社奉行のもとに紅葉山東照宮付の紅葉山坊主などがいた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「坊主」の意味・わかりやすい解説

坊主
ぼうず

かつては房主と書き,僧房を管掌する主僧で住職をいう。転じて一般僧侶の称呼となり,さらに髪を剃っている頭あるいはその人をもさした。また武家時代に大名などに仕えて,僧形で茶の湯など雑役をつとめた者も坊主と呼ばれた (→茶坊主 ) 。現代では僧侶をさすほか,男児を親しんでいう語としても用いられる。

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デジタル大辞泉プラス 「坊主」の解説

坊主〔島〕

鳥取県岩美郡岩美町、網代埼にある無人島。2009年に政府の総合海洋政策本部が策定した「海洋管理のための離島の保全・管理のあり方に関する基本方針」に基づき、名称付与された離島のひとつ。

坊主〔野菜〕

東京都で生産されるウド。

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旺文社日本史事典 三訂版 「坊主」の解説

坊主
ぼうず

僧房(僧侶の住居)の主をいう
真宗で一坊の主僧・住持を坊主といったが,室町時代以後僧侶一般の呼称となる。

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