改訂新版 世界大百科事典 「誹毀法」の意味・わかりやすい解説
誹毀法 (ひきほう)
libel act
誹譏法とも書く。文書による名誉毀損の取締法をさし,印刷物,とくに新聞や雑誌の発達および言論出版の自由の発達と深くかかわりながらイギリスで発展した。15世紀ころから近代初期にかけては,政治的誹毀の取締りが中心で,国王に対する誹毀は反逆罪の一つとされていたが,18世紀に入ると,こうした政治的誹毀を〈治安妨害的誹毀seditious libel〉という特別の刑事犯罪とみる考え方が現れた。誹毀の事実が虚偽の場合はもちろん,真実の場合も,〈真実であればあるほど誹毀は重大だthe greater the truth,the greater the libel〉といわれ,誹毀裁判では陪審人に事実審理の権限は認められなかった。しかし,1792年フォックスFox誹毀法で陪審人に有罪・無罪の判定権が認められ,さらに1843年キャンベルCampbell誹毀法により,裁判開始前の一定の謝罪apologyに弁疏能力が認められるとともに,誹毀の事実が真実で,かつ公表が公共の利益のために行われたことが証明されれば免責される原則が確立された。つづいて,1888年修正誹毀法が成立し,各種の公共的会議の報道は,悪意で行われたものでないかぎり免責の特権が認められることになった。こうして,文書による名誉毀損取締法の近代的諸原則がほぼ完成するに至った。
→名誉毀損
執筆者:内川 芳美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報