日本大百科全書(ニッポニカ) 「財政乗数」の意味・わかりやすい解説
財政乗数
ざいせいじょうすう
fiscal multiplier
政府の経済活動一単位の増減が、国民所得の何単位の増減をもたらすかという比率をいう。たとえば、財政支出一単位の追加は、総需要の一単位の増加、さらに国民所得の一単位の増加となるだけではなく、その波及を通して最終的にその数倍の需要拡大効果をもたらす。なぜなら、財政支出一単位の追加は、総需要の一単位の増加、国民所得の一単位の増加をもたらす結果、さらに限界消費性向を乗じた分だけ消費需要を拡大する。このことはまた生産・所得の増大をもたらすという無限の連鎖を生じるからである。
また、支出の拡大ではなく減税によっても民間消費増加を通じて総需要拡大効果はあるが、この場合には一部が貯蓄に回るため、需要拡大効果は直接的な支出拡大による乗数よりも小さくなる。一方で財政支出を拡大するとともに、他方で同額だけ増税すると、経済に対して中立的であると考えられるが、ある経済状況の下では同額の国民所得の増大をもたらす。これを「均衡予算の定理」という。このことは、前述したように、財政支出の乗数効果と租税の乗数効果の違いに依存している。
[藤野次雄]