日本大百科全書(ニッポニカ)「減税」の解説
減税
げんぜい
税率の引下げ、諸控除の引上げ、非課税範囲の拡大、免税点の引上げなどにより、租税負担額を軽減すること。減税は、物価上昇に伴う租税負担の調整のために行われる物価調整減税と、租税負担の実質的軽減を図るために行われる実質的減税とに区分される。また、所得税の税率引下げのように減税効果がその税目の納税者全体に及ぶものを一般減税とよび、日本の租税特別措置法による減税のように特定の分野の納税者だけを対象とするものを政策減税とよんでいる。
第二次世界大戦後日本においてもっとも頻繁に実施された減税は、所得税(国税)や個人住民税(地方税)の一般減税であり、これは戦後のインフレに対処するための物価調整減税であった。所得税や個人住民税は累進税率が適用されているから、インフレなどによって名目所得が上昇すると、実質所得は変わらなくても、より高い税率が適用されて租税負担額は増大する。物価調整減税は、物価上昇から生ずるこのような租税負担の自動的増大を調整し、以前と同じ水準の実質所得に対しては同額の実質租税負担額を維持するような減税である。この調整のためには、同じ名目所得額に適用される税率の引下げ、各種所得控除の引上げ、ある種の税額控除額の引上げなどの措置が必要である。また物価調整減税は、比例税率が適用される税の場合にも必要となる。それは、多くの場合に低所得者の保護などのために課税最低限が定められており、物価上昇に応じてこの課税最低限を引き上げていかないと、実質的増税につながることになるからである。
経済全体のなかで相対的に拡大しすぎた公共部門を縮小しようと意図する場合などには、実質的減税が行われる。減税分を公債収入で補填(ほてん)してしまったのでは公共支出額を削減できないが、税収に対応して公共支出も削減する形での公共部門の規模の縮小は、スウェーデンなどの北欧諸国でも実施された。フィスカル・ポリシーの理論によると、政府支出については一定にしておいて減税を実施することは、民間部門の可処分所得を増大し、消費を高め有効需要を拡大する効果がある。ただし、公共事業の拡大などの政府の財貨・サービス購入による場合と比べると、所得の一部は貯金の形で有効需要から漏れるから、同じ額であっても減税による有効需要創出効果のほうが小さくなる。
なお、アメリカでは、1981年のレーガン政権成立後、需要面より供給面を重視するサプライサイド・エコノミックス(供給の経済学)の考えを取り入れ、アメリカ経済停滞の大きな原因は重税にあるとして、歳出の削減を図る一方、所得税の減税によって貯蓄性を高めるとともに、法人税の減税、投資税の控除拡大など、企業活動に対する減税を行って設備投資を刺激し、生産性の拡大を図ろうとした。
グローバル化の進展に伴い、近年において世界各国の個人所得税や法人所得税の最高限界税率は大幅に引き下げられてきているが、現代の福祉国家は巨大な財政需要を抱えており、ある税が減税されると他の税の増税により必要な財政収入を確保することが必要となる。
[林 正寿]