跡無し(読み)アトナシ

デジタル大辞泉 「跡無し」の意味・読み・例文・類語

あと‐な・し【跡無し】

[形ク]
跡形もない。はかない。
「しるべせよ―・き浪にこぐ舟のゆくへも知らぬやへの潮かぜ」〈新古今・恋一〉
人の往来がない。
「かよひこし宿の道芝かれがれに―・き霜にむすぼほれつつ」〈新古今・恋四〉
根拠がない。事実無根である。
「犬の足(ヲ切ッテ食ワセタ話)は―・きことなり」〈徒然・一二八〉
比べるものがないほどすぐれている。
「―・き俳優わざをぎ見るやうに」〈おらが春

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「跡無し」の意味・読み・例文・類語

あと‐な・し【跡無】

  1. 〘 形容詞ク活用 〙
  2. 跡が残らない。あとかたもない。
    1. [初出の実例]「世の中を何に譬へむ朝開き漕ぎ去(い)にし船の跡無(あとなき)ごとし」(出典万葉集(8C後)三・三五一)
  3. ( 跡が残らないところから ) むなしい。効果がない。
    1. [初出の実例]「あらたまの五年経れどわが恋ふる跡無(あとなき)恋の止まなくも怪し」(出典:万葉集(8C後)一一・二三八五)
  4. 人の往来が絶えている。人の訪れがない。
    1. [初出の実例]「とへな君夕暮れになる庭の雪をあとなきよりはあはれならまし」(出典:山家集(12C後)上)
  5. 根拠がない。あてにならない。また、ばかげている。でたらめだ。
    1. [初出の実例]「迷心の跡(アト)なき事真如の不遠事。迷悟ただ一性にて」(出典:雑談集(1305)八)
  6. 跡を継ぐ者がないほどに巧妙だ。比べようがなくすぐれている。
    1. [初出の実例]「心のうち一点の塵もなく、名月のきらきらしく清く見ゆれば、迹なき俳優見るやうに、なかなか心の皺を伸しぬ」(出典:俳諧・おらが春(1819))

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android