西行(さいぎょう)の家集。3巻。歌数は系統によって異なるが、陽明文庫本は1552首、六家集板本は1569首。四季、恋、雑(ぞう)に部類されているが、雑の部には何次かの増補の跡がみられる。巻末には百首歌(ひゃくしゅうた)1編を付載する。成立年次、自撰(じせん)・他撰の別などは不明だが、最晩年の作を含んでおらず、詞書(ことばがき)の記述はしばしば詳細で自記を思わせることなどから、あるいは60代の初め伊勢(いせ)に移住する以前の詠を自らまとめたものに、他人の手が加わって成ったか。秀歌も少なくないが、平凡な作もかなり含まれている。六家集の一つ。西行には『山家集』のほかに『聞書集(ききがきしゅう)』『聞書残集』『西行法師家集』(「西行上人集」「異本山家集」とも)『山家心中集(しんちゅうしゅう)』など、数種の家集が存する。これらのうち、『聞書集』『聞書残集』は『山家集』とほとんど重複しないが、『西行法師家集』は重複歌を含みつつ、『山家集』にない秀歌をも収め、両者の関係は明らかではない。『山家心中集』は西行自撰の秀歌選とみられ、『西行法師家集』と密接な関係を有する。近世や近代の俳人、歌人、詩人が親しんできたのは『山家集』であるが、西行の世界を知るためには本書のみでは不十分で、これら家集類のすべてを読むことが望ましい。
[久保田淳]
『久保田淳著『古典を読む6 山家集』(1983・岩波書店)』▽『『新編国歌大観3 私家集編Ⅰ』(1985・角川書店)』
西行の家集。3巻。歌数約1560首。西行自撰説にしたがえば,1178年(治承2)西行50代末ごろに原型が成立し,以後西行自身あるいは他者の手によって,数次にわたり約300首が増補され,現在の流布本《山家集》が成立したとされる。ほかに《異本山家集》(《西行上人集》などとも)があり,その歌数約600首のうち150首余りは,流布本に未見の歌である。西行の個人歌集には,ほかに,この流布本からの抄出かとも説かれる《山家心中集》(360首)や,この《山家集》と1首も重複しない《聞書集》(263首),重複1首のみの《聞書残集》(32首)などがある。若くして出家し自然に親しむ漂泊の生涯を送った西行の,ものに触れての深い感動が流露した平明な歌風や,伝統を十分に消化したうえでの浪漫的詩情に見るべきものがある。題詠の流行に伴い,みずみずしい詩情を失いつつあった平安末期の歌界に,異彩を放ち,古来愛好者が多い。
執筆者:上条 彰次
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西行(さいぎょう)の家集。3巻。六家集の一つ。原型が高野在住末期に自撰され,西行または後人の手で増補か。上巻は四季,中巻は恋・雑,下巻は雑と恋百十首・讃岐旅行歌・伊勢詠・十題百首などを収める。諸本は,陽明文庫本(1552首),松屋本(板本書入れ。1252首,独自歌69首),六家集板本(1569首)などの諸系統がある。花月をはじめとした自然や庵居・行旅の生活・風物を詠じつつ,表現の自在さに支えられて実感を表出するところに独自の境地がある。この集を中心に西行の和歌は新古今時代から評価され,近代に至るまで大きな影響を与えた。他の家集に「西行上人集」「聞書集」「聞書残集」「山家心中集」「別本山家集」がある。「岩波文庫」「西行全集」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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