近代法(読み)きんだいほう

改訂新版 世界大百科事典 「近代法」の意味・わかりやすい解説

近代法 (きんだいほう)

およそ19世紀初頭までに確立した近代市民社会の法をいう。私有財産保障や契約の自由等の近代資本主義社会の基本的要請や,それらと密接に関連する政治的な個人主義,自由主義,民主主義等の諸原理によって構成された法秩序。これらの基本的原理は,憲法においては人格平等,基本的人権の尊重,議会制民主主義,権力分立,法治国家原理等に,また私法においては私的自治の原則,所有権の不可侵性,契約自由の原則,過失責任の原則等に,刑法においては罪刑法定主義の原則等に具体的に示されている。しかし,これらの基本原理,とりわけ憲法や私法のそれは20世紀になると批判の対象とされ,自由放任の経済活動が人間社会の幸福を増大させるという信念は,貧富の差や政治的不平等の拡大によって,妥当なものとは考えられなくなった。このような変化のもとで,近代法を部分的あるいは全面的に批判して成立したのが現代法である。現代法で特徴的なことは,福祉国家思想の浸透,労働法や経済法等の社会法の成立・発展による私権の制限,国家機能の拡充である。とくに社会主義的な法体制は,このような変革を大胆に推し進め,近代法原理のほとんどを否定したが,資本主義諸国は,近代法原理を基本的に維持しつつ,その修正を図ろうとしている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の近代法の言及

【権利意識】より

…それゆえ権利の主張は,ルールに基づく要求の正当性をめぐる相互的主張(論争)を予定し,同時にその論争を導くルールの尊重,および論争をへて吟味されたルールの尊重を前提とする。 社会の一般成員の間に十分な権利意識が広まっていることは,近代法の諸制度が有効に機能しうるための不可欠の条件である。近代法は,すみずみまで権利の概念を中心として組み立てられており,法の作動によって影響を受ける人々自身が自分の法的権利を積極的に行使することによってはじめて所期のとおり作動するように作られているから,上記の権利意識(1)が直接的に必要となる。…

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